2023 Fiscal Year Annual Research Report
A study of old handwritten fragments of "Wakan Roueishu"
Project/Area Number |
16K02382
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
惠阪 友紀子 京都精華大学, 国際文化学部, 准教授 (90709099)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 和漢朗詠集 / 書誌学 / 本文享受 / 古典籍 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、個人蔵の資料の調査と収集した資料の分析を行なった。 『和漢朗詠集』の伝本については本文異同が大きく、諸本の系統が整理されていないが、本文異同の要因としては、伝本の多さに加えて、正確に書き写すという意識が低かったことにあると考えられる。漢詩については、書体の類似などの単純な誤写も多く、和歌については、意味は大きくは変わらないものの些細な語句の異同が多く見られる。誤写や些細な異同の原因については、本集が調度品や書の手本、文字の鑑賞として書写された点が考えられる。装飾料紙を用いた写本も多く、内容よりも見た目に重点が置かれた結果、本文の書き誤りには注意が払われなかったと思われる例も多く見られる。さらに、書写年代が下るにつれ、和歌よりも漢詩が重視される傾向があり、和歌の誤写や異同が多くなっていく。 誤写だけではなく、積極的な本文の改変や詩歌の増補を行なったと考えられる例も散見する。平安期写本に見られない詩歌が後世の写本には追加されていくが、増補された詩歌は、『源氏物語』に引用されるなど、その当時、人口に膾炙した詩歌である場合が多い。『和漢朗詠集』は、四季・雑の大きな分類の下に、細目を立てて詩歌を分類することなどから、詩歌鑑賞のためだけではなく、作詩・作歌の手引きとしての役割を果たしていたとの指摘がある。このような性格から、書写された当時に合わせた改変が行なわれていたと考えられる。 また、書写の在り方についても、ただ書き写すだけではなく、漢字の書体に変化をつけたり、和歌の用字に漢文訓読後を取り入れたりという工夫が凝らされている写本も少なからずあり、書写そのものを楽しんでいた様子が読み取れる。 『和漢朗詠集』は完成された作品としてただ書写するのではなく、書写者がそれぞれの目的に合わせて手を入れながら享受されてきたことを明らかにした。
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