2020 Fiscal Year Research-status Report
歌と絵と書の融合芸術としての歌仙絵作品の成立及び展開に関する抜本的総合研究
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16K02393
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
寺島 恒世 武蔵野大学, 文学部, 教授 (80143080)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 散らし書き / 和歌書式 / 色紙 / 返し書き |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の成果を踏まえ、歌仙絵作品における和歌の書式の問題につき、多様な書かれ方をする実態を検討するとともに、書式が多様化する要因につき、その原理を含め、考察した。 具体的には、国文学研究資料館蔵田安徳川家旧蔵入木道伝書(田藩文庫)の「書跡」資料に収められる色紙の書き方を扱う諸書を整理し、色紙における和歌書式の具体的な例を分析し、整理した。その実態と展開を把握した上で、鎌倉時代成立の資料のうち、多彩な方法を示す『詩歌色紙形』につき、「乾」「坤」両冊各18例、全36例の書かれ方を分類し、多様化に進む要因を考察した。書道研究の立場から説かれてきた先行説を押さえた上で、結論として、多様化が志向される要因の主なものは、行を段組みに構成することと通常右から左に移る行の方向を逆に記すことの二つと認められることを導いた。ともに日本の古典籍には一般に現れない書き方であり、特に後者の左から右への書字方向は、媒体の如何を問わず、通常の書写行為には存し得ない。それを可能としたのは、文字を書くのが色紙という、次丁(次頁)には移動しない限定された場であることが前提としてあり、散らし書きの範型を示す逸品として知られてきた三色紙(『継色紙』・『升色紙』・『寸松庵色紙』)のいずれにも認められる「返し書き」(左から右への行移り)の先例と深く関わっていることを推測した。 その指摘の上に、分析した『詩歌色紙形』が特に多彩な書式を試みるのは、読解が平易ではない特異な文字配置も、和歌・漢詩ともに同一散らし書きの型で記すことで、相互の参照により判読の手がかりを得ることができ、作品としての理解が深まる興趣と連動していることを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
歌仙絵作品の調査が新型コロナウイルス感染拡大により不可能となったことに加え、本務校の授業形態がオンラインに切り替わり、その対応により研究時間が大幅に削減され、予定の作業を進めることがほぼ不可能となったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画の予定が進みにくかった部分を、期間延長をして頂いた時間を有効に活用して補足するとともに、調査対象資料につき、一部オンライン公開も始めて頂いた機関もあるので、それらを可能な限り有効に活用させて頂くことにより調査を進め、研究の取り纏めに向かいたい。
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Causes of Carryover |
本年度予定していた調査旅費が新型コロナウイルス感染拡大の影響で、執行不可能となり、同時に公務の多忙化が急速に進んだことが理由である。幸い1年間の期間延長をして頂いたので、その時間を用い、当初計画の通りに進める予定である。
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