2021 Fiscal Year Research-status Report
歌と絵と書の融合芸術としての歌仙絵作品の成立及び展開に関する抜本的総合研究
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16K02393
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
寺島 恒世 武蔵野大学, 文学部日本文学研究所, 客員研究員 (80143080)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 散らし書き / 和歌書式 / 色紙 / 均整志向 / 均衡と不均衡 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、和歌の書式の実態の検討を進めた。本年度は、国文学研究資料館蔵田安徳川家旧蔵入木道伝書(田藩文庫)の「書跡」に分類される色紙の書き方を扱うもののうち、『三十六歌仙』・『百人一首』等、作品による異同の実態を確認した。その上で、同一作中相異なる型を示すことにおいて最も数の多い『百人一首』歌を扱う伝書を取り上げ、持明院家伝統の散らし書きの型の十六類型を基準に据えて、解析と考察を進めた。 具体的には、『百躰色紙形』という複数種の伝書を調査し、その実態を検証した。その多彩な型の特徴として指摘できる一つ目は「対称」の原理である。それは左右対称を基に、点対称を含み、さらに升形に文字を配する先例のない特異例も含まれる。二つ目は「反復」の原理であり、同一の行配置が繰り返される型である。百例の過半をはるかに超える事例に認められるこの二つの原理は、謂わば幾何学的な文字配置であり、全体の基本原理となっている。こうした均等に整える作為・遊戯性は、書式の研究の対象にはなりにくく、書研究において本格的な検討はなされていない。書道芸術の観点からは否定的に評価せざるを得ないこれらの事例が入木道家の書式として継承されてきた理由は、百の異なる形式を型として提示するには、従来の「立石」「木立」等、自然物に例えられる不均衡な形の散らし書きのみでは到底実現が不可能であることに求められる。 整序された形は一見、伝統的な不揃いの型による散らし書きと異質であるものの、実は従来の型にも「対称」と「反復」の原理は部分的に採用されており、均衡による方法が全く忌避されていたわけではない。これは昨年度検討した詩歌合にも認められる特徴であり、歌仙絵作品が由来する左右を番える歌合形式の構造とも関わって、均衡と不均衡が対立的ではない関係を見極めることが、散らし書きの性格を考え直すための要所となることを導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に続き、歌仙絵作品の調査が新型コロナウイルス感染拡大により不可能となったことに加え、本務校の授業形態が引き続きのオンライン形式に加え、ハイブリッド型も導入され、その対応により研究時間が大幅に削減されたことで、予定通りに作業を進めることがほぼ不可能となったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画の予定が進みにくい現状において、期間延長をして許可頂き、得られた時間を有効に活用して補足するとともに、調査対象資料につきオンライン公開で閲覧可能となった機関もあるので、それらを可能な限り活用させて頂くことにより調査を進め、研究の取り纏めに向かいたい。
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Causes of Carryover |
本年度予定していた調査が新型コロナウイルス感染拡大の影響で不可能となり、同時に定年を控え、校務の多忙化が進んだことが理由である。幸い1年間の期間延長をして頂いたので、その時間を有効に用い、当初計画の通りに進める予定である。
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