2018 Fiscal Year Research-status Report
戦後児童文学にみる「文学」の体系化と規範化――少年少女向け叢書を中心に
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16K02398
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 宗子 千葉大学, 教育学部, 教授 (40154108)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近代文学 / 叢書 / カノン形成 / 少年少女読者 / 日本文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、研究3年目として、資料調査としては、前年度に引き続き偕成社から刊行された「ジュニア版 日本文学名作選」の内容把握を確実にするとともに、同叢書に少し遅れて刊行開始となった、ポプラ社「アイドル・ブックス」に重点を置き、前者との対比も含めて検討を重ねた。1950年代刊行の少年少女向け日本近代文学叢書においては、「近代文学」というカノン形成が図られつつ国語教育の補完的意義も比較的強く有していたが、60年代の偕成社「ジュニア版 日本文学名作選」において、また対抗するポプラ社「アイドル・ブックス」においては、作品主体の叢書となり、書目の編成にも特定作家や特定作品の定着が見られるようになってきた。両叢書においては、作家としては夏目漱石、作品としては『次郎物語』をはじめとする成長小説が重視されるなど、共通する面もある一方、競合する叢書として、前者は大衆的読み物、後者は一部翻訳作品を入れる等、差別化も図られてはいる。また、それらの叢書は、資料館所蔵の図書に残された読書の痕跡等から、家庭における読書を念頭に置いたものであり、近しい年長者から年少の読者に向けて、「教養形成」を図る趣旨で手渡されていたことが容易に想像される。こうした叢書が時に装幀を変えつつ1980年代まで20年近く読み継がれていた事実の重要性も、改めて確認された。 これらの成果については、2018年8月に中国湖南省長沙で開催された第14回アジア児童文学大会および2018年11月に開催された日本児童文学学会第57回研究大会において、骨子を口頭発表した。なお、現在のところ、1980年代に刊行開始され21世紀に再編集版が刊行されている講談社「少年少女日本文学館」における収録状況について、資料調査に手を付け始めたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた叢書類の調査を進めることができた。また、発表に関しても、当初予定していたアジア児童文学大会と日本児童文学学会における口頭発表を行うことができた。さらに、それらをもとに、今年度の紀要に研究成果をまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に向けては、少し手を付け始めている講談社の、1980年代刊行の「少年少女文学館」について、編集状況が偕成社・ポプラ社の叢書とはまたかなり異なることがわかっているので、具体的な叢書の調査を進めていきたい。また、同叢書は、21世紀になってから、再編集された形で21世紀版と銘打ち、刊行されている。21世紀版にも調査の眼を向け、この間の少年少女読者を対象にした「近代文学」の意義がどのように推移しているのかを、明らかにしていきたい。研究の最終年であるため、これまでに扱った叢書類の特徴等を俯瞰し、「カノン形成」「教養形成」の実態と変遷を概括的に捉えていけるように努める。 そうした総括に必要な範囲で、国内の専門的資料館における資料調査も進めていきたい。 また、2019年7月末からは国際比較文学会がマカオで、2019年8月には国際児童文学学会がスウェーデンのストックホルムで、開催される予定である。現在、いずれの学会にも発表を申し込み、受理されている。さらに、2019年11月には日本児童文学学会の研究大会が、東京で開催予定であり、そこでも発表することを考えている。これらの口頭発表を通じて、成果を発信するとともに、多様な反応を得て、最終的な報告にまとめられるようにしたい。
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Causes of Carryover |
(理由) 研究の計画申請の段階では、2019年の国際児童文学学会の大会開催地が判明していなかった。それが、2017年夏に、ストックホルムであることが分かったため、旅費がかかることを念頭に置き、2017・18年度の2年間にわたり、大会参加を念頭に置き、繰越をしていくようにしてきたためである。 (使用計画) 2019年度は、7月末から国際比較文学会がマカオで、同年8月には国際児童文学学会がストックホルムで、それぞれ大会開催が予定されており、参加するための旅費に充当する。また、最終年度であるため、できる範囲で、研究成果の一部資料を閲覧しやすい冊子にまとめて、関係機関等に送付できるようにしたい。
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