2017 Fiscal Year Research-status Report
国民国家確立期の〈民族精神〉による〈国民文学〉の創生――鴎外・樗牛・嘲風を中心に
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16K02401
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
林 正子 岐阜大学, 地域科学部, 教授 (30198858)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 森鴎外 / 高山樗牛 / 姉崎嘲風 / 多和田葉子 / 文化主義 / ドイツ思想受容 / 博文館「太陽」 / 近代日本文明論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、森鴎外、高山樗牛、姉崎嘲風の評論・小説を主な考察対象として、日清・日露戦争以降の国民国家確立期日本における〈民族精神〉論が、ドイツ思想からの影響のもと〈国民文学〉を創出する実相を明らかにすることである。 平成29年度は、著書『博文館「太陽」と近代日本文明論――ドイツ思想・文化の受容と展開』(勉誠出版 2017年11月(奥付は2017年5月))を刊行した。本書については、平成28年度の研究実施状況報告書に「2017年5月末刊行予定」として記載していたが、平成29年度になって、書名の再検討、記述の修正、人名索引・事項索引の作成等を重ねての刊行となったため、平成29年度分として再掲する次第である。本書では、樗牛、嘲風、鴎外ら近代日本の知識人が「国民文化」の構築・発展にいかに寄与したのか、彼らのドイツ思想・文化の受容は、当時の日本人の精神基盤の形成にいかなる影響を与えたのかについて論じている。 学会発表では、日本比較文学会第79回全国大会(2017年6月18日 山形大学小白川キャンパス)シンポジウム「森鴎外と多和田葉子――日独越境者の言語意識と文化受容」における「〈エクソフォニー小説〉としての『舞姫』――実体験の〈翻訳〉という創作の力」、日本比較文学会第43回中部大会(2017年12月2日 名古屋大学)シンポジウム「文化主義者の美学――鴎外、烏水、荷風による欧米受容と文化の創出」における「森鴎外の「文化」概念と近代日本の「文化主義」」、第39回ハイネ逍遙の会(2018年2月24日 名古屋国際センター)における「森鴎外のハイネ受容――「文化」概念と「文化主義」」の各発表において、〈国民文学〉創生に向けての鴎外におけるドイツ思想・文化受容の成果について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」欄に挙げたように、平成29年度には本研究課題についての著書『博文館「太陽」と近代日本文明論――ドイツ思想・文化の受容と展開』(勉誠出版)を刊行することができたが、本文は平成28年度末に完成しており、平成29年度の実績としては、記述のブラッシュアップ、人名索引・事項索引の作成にとどまっている。 また、学会発表においても、森鴎外の思想・文化受容による〈文化〉概念、および〈文化主義〉への導入に係る考察については一定の成果を挙げることができたが、高山樗牛と姉崎嘲風による〈民族精神〉論の独創性を論じ、鴎外の〈民族精神〉論との比較をおこなうことについては十分な研究段階に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の補助期間最終年度においては、森鴎外、高山樗牛、姉崎嘲風それぞれによる〈民族精神〉の追究と〈国民文化〉についての彼らの認識の深化が、〈神話〉と〈歴史〉の分離、〈伝説〉の文学化となって表れていることを読み解く。鴎外、樗牛、嘲風の小説・評論を、三者の切磋琢磨の成果として考察することによって、近代日本の〈民族精神〉追究による〈国民文化〉創出のダイナミズムについて究明することをめざす。 具体的には、樗牛「古事記神代巻の神話及び歴史」(「中央公論」明治32年3月)や、髙木敏雄『比較神話学』(明治37年)、『日本神話伝説の研究』(大正14年)、柳田國男『民間伝承論』(昭和9年)、『民俗学辞典』(昭和26年)などに示されているような学問的用語例としての〈神話〉概念を検討し、「神話は、その神話を生んだ民族の文化的伝統の深奥にあるものに表現を与えている(中略)神話の中には生活の必須行為、必須機能を歴史以前の過去に投影し、物語化したものが少なくない。」(『ことばコンセプト事典』)とあるような〈神話〉の定義を活用することによって、鴎外、樗牛、嘲風らの〈神話〉概念を相対化する。とくに、鴎外の神話概念の相対化については、グリム兄弟『ドイツ伝説集』(1816~18)の「伝説と童話と歴史は、土地の人々についている守護霊である」といった記述なども参照し、鴎外の長編小説『青年』(「スバル」明治43年3月~44年8月)に記された、「現代語で、現代人の微細な観察を書いて、そして古い伝説の味を傷つけないやうにしてみせよう」という主人公の志向が、『山椒大夫』(「中央公論」大正4年1月)における〈伝説〉の小説化と対応することなどを指摘する。〈伝説〉の小説化に向かうことの鴎外にとっての必然性を明らかにすることによって、〈民族精神〉に裏打ちされた〈国民文学〉としての意義を考究することを趣旨としている。
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