2016 Fiscal Year Research-status Report
1950年代文化運動における農村女性文学の研究:山代巴と無名の書き手たち
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16K02402
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宇野田 尚哉 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (50324893)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹内 栄美子 明治大学, 文学部, 専任教授 (00236415)
川口 隆行 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (30512579)
黒川 伊織 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (50611638)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 山代巴 / サークル / 文化運動 / 重家豊 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は,本共同研究チームの全員が参加し,本共同研究の主要な研究対象である山代巴にも言及する論文集『「サークルの時代」を読む:戦後文化運動研究への招待』(宇野田尚哉・川口隆行・坂口博・鳥羽耕史・中谷いずみ・道場親信編,影書房,2016年)を刊行した。とりわけ同書の第1章「1940年代後半のサークル運動:職場サークルを中心に」(宇野田執筆)は,山代巴の盟友であった職場サークルの活動家重家豊を主要な分析の対象としながら,山代巴を含む備後地域のサークルネットワークをも論じた論文であり,本共同研究にとって大きな前進となった。また,本共同研究チームのメンバーの,同書に収められた論文,および,同書所収のシンポジウム記録における発言は,いずれも,1950年代の文化運動という広い裾野から本共同研究の課題に迫る研究であり,とりわけ川口の論文「被爆地広島のサークル詩誌の軌跡」は,被爆者運動とも関わるところの深かった山代巴にも関わる業績である。 上記のような研究成果をまとめる一方,本共同研究チームでは,主要な先行業績である牧原憲夫『山代巴 模索の軌跡』(而立書房,2015年)を検討する研究会を開催するとともに,広島大学文書館で山代巴関係文書の調査を行うなど,今後の研究の展開のための基礎作業を着実に行った。広島大学文書館で調査をするにあたっては,山代巴関係文書だけではなく,それと関係の深い大牟田稔関係文書の調査も行い,重要な資料を撮影して,現在分析しているところである。 さらに,本共同研究を進めていくための基礎作業として,山代巴の活字化された著作の目録を作成する作業を行った。この作業を行うにあたっては,たんに目録を作成するだけでなく,現物もしくはコピーを収集することを原則とし,この作業が同時に研究基盤の構築にもなるよう努めた。この目録は,2017年度中には公開できる見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の今年度は,当初の予定通り,1次資料の調査・収集に力を入れた。広島大学文書館所蔵の山代巴関係文書・大牟田稔関係文書の調査・収集を精力的に行い,今後の研究の資料的基盤を築くことができた。 また,山代巴の活字化された著作の目録を作成するとともに,目録化した著作の現物もしくはコピーを収集する作業を持続的に行った。この目録は完成に近づいており,山代巴の活字化された著作はかなり網羅的に収集されていて,上記の山代巴関係文書の調査と相俟って,今後の研究の基盤が順調に築かれつつある。 さらに,今年度は,本共同研究チームの全員が『「サークルの時代」を読む:戦後文化運動研究への招待』(宇野田尚哉・川口隆行・坂口博・鳥羽耕史・中谷いずみ・道場親信編,影書房,2016年)に参加するというかたちで,山代巴を含む1950年代の文化運動についての議論を深めることができた。 資料の調査・収集は初年度に順調に進み,かなりの程度研究の基盤が築かれたので,今後は,『「サークルの時代」を読む:戦後文化運動研究への招待』の成果を踏まえつつ,より具体的な研究成果を生み出すことを目指すことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度で,広島大学文書館所蔵の山代巴関係文書・大牟田稔関係文書等の調査・収集,山代巴の活字化された著作の目録化と現物もしくはコピーの収集は,ほぼ完了した。初年度でほぼ今後の研究の基盤が築かれたことを意味する。ただし,初年度の研究成果は,1950年代の文化運動を幅広く論じたり,山代巴が活動の場とした備後地方の文化運動について論じたりすることはできたが,まだ十分に本共同研究の研究課題に立ち入ることはできていない。 そこで,今後は,研究基盤の整備から,その基盤のうえでの研究の遂行に重心を移し,研究成果を少しずつまとめる作業に入っていく。具体的に取り組むことになる課題は,次の通りである。(1)初年度に収集した,これまで分析されたことのない作品も含む,山代巴の著作(とりわけ文学作品)の総体的分析。(2)初年度に収集した資料に基づく,山代巴と被爆者運動との関わりの再考。(3)山代巴の事例を中心とした,農村文化運動,とりわけそのなかでの無名の女性たちによる表現の,包括的かつ多面的な研究。(4)山代巴の盟友であった牧瀬菊枝が担い,山代巴も深く関わった,生活記録運動の研究。 今後は,4人の共同研究チームのなかで,それぞれ役割を分担しながら,上記の課題に取り組んでいくことになる。
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Research Products
(4 results)