2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02405
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
中谷 いずみ 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (10366544)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 冷戦 / 運動とジェンダー / 生活記録 / 国民文学論 / 戦争責任 / 強制連行 / 労働者文学 / 日本共産党 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、1950年代前半の戦争に関する文学/表象がどのように集団的記憶の生成に関与してきたかについて考えるために、継続的に考察を続けている生活記録運動とジェンダーの問題や、松田解子の長編小説「地底の人々」について調査研究を進めた。 1. 共編著『「サークルの時代」を読む―戦後文化運動研究への招待』影書房 2016 2. 「戦争への抵抗と責任―1950年代の労働と文学」社会文学会2016年度三重大会、2016/11/12 3.「「アジアの連帯」と強制連行の記憶/記録―松田解子『地底の人々』」ワークショップ「東アジア冷戦と〈移動〉―〈強制労働〉の経験と記憶」淡江大学(台湾)2017/3/14 1は、敗戦後占領期からサンフランシスコ講和条約を経て、日本が冷戦体制に組み込まれていく時期の抵抗運動として、サークル文化運動を取り上げた論集である。戦争の記憶を生々しく抱えた運動主体が、朝鮮戦争を始めとする熱戦/冷戦の顕在化と逆コースの渦中で、どのように時代と切り結び抵抗の言葉を編み出していったのか、また彼/彼女らはどのように表象され、どのような政治的社会的言説や運動と接続されていくのかについて論じたものである。2と3では、1950年代前半の左派言説における戦争の記憶、特に花岡事件に代表される戦時下の強制連行/労働を題材とする松田解子の長編小説「地底の人々」について論じた。労働者の国際的連帯を訴える左派言説の基盤のうえに戦時の帝国日本の暴力をいち早く訴えるこの作品が描かれ得たことと、しかし戦時の中国人強制連行/労働という題材の小説にまでも、日本人労働者の抵抗という要素を求める声が存在したことなどについて、当時の中国・台湾政府と日本政府との交渉を背景としながら考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
労働者文学の観点から強制連行を題材にして書かれた長編小説「地底の人々」(松田解子)の調査研究を通して、1950年代前半の左派による国際連帯志向と戦前戦時の記憶がどのように絡み合っていたのかについて考察を進めることができた。またこれらの問題と「国民文学論」や女性ジェンダー化された抵抗運動としての生活記録運動の隆盛との同時代性を確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果を踏まえつつ、ジェンダー規範や異性愛規範、ホモソーシャル等の観点から戦争の記憶/表象や戦争責任の問題について調査分析を進めることとする。
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Causes of Carryover |
購入予定だった関連書籍の刊行が遅れたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
関連書籍の購入に使用する予定。
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Research Products
(4 results)