2016 Fiscal Year Research-status Report
享保・宝暦期俳諧の新研究:芭蕉没後の「かるみ」伝播を軸にして
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16K02416
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Research Institution | Wayo Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 勝明 和洋女子大学, 人文社会科学系, 教授 (60255172)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉城 司 清泉女学院大学, 人間学部, 客員教授 (20410441)
伊藤 善隆 立正大学, 文学部, 准教授 (30287940)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近世俳諧 / 享保・宝暦期 / 都市系と地方系 / かるみ / 蕉風 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の「研究実施計画」として挙げた4点の内、1・2・3については、ほぼ順調にスタートを切った。 1の「宝永期後半から正徳期にかけての俳書を悉皆的に調査し、入集者と入集状況を整理する作業に取りかかる」については、この予定通りに進行しており、調査・分析して得られた成果は、「宝永正徳俳人大観」と題して2回分を『近世文芸研究と評論』誌上に公表した。 2の「享保・宝暦期の俳諧資料について、その所在を探る作業を開始し、1と合わせて調査旅行を敢行する」については、夏季に彦根市立図書館に所蔵される俳諧資料を調査し、重要な資料を自分たちの研究対象に加えることができた。これまでに収集した資料との関係づけも行いつつあり、一定の成果が見え始めている。 3の「俳諧資料について、翻刻する価値のあるもの、注釈する価値のあるものを選定する」に関しても、翻刻対象として宝暦六年刊行の春来編『東風流』を選び、諸本の比較・検討などを始めている。また、他に伝本の知られない玄隆編『雪の下芽』(寛保三年序)を知り得たことから、研究代表者である佐藤勝明がこれを翻刻し、『近世文芸研究と評論』誌上に公表した。注釈対象としては、『五色墨』『四時観』などの数書を選び、これも諸本の調査などを始めると同時に、『五色墨』所収の「うぐひすや」歌仙が未注釈であることに注目し、佐藤勝明や研究分担者である玉城司・伊藤善隆のほか、服部直子・越後敬子・稲葉有祐にも研究協力者として協力を仰ぎ、実際に注釈を行い、これも『近世文芸研究と評論』誌上に公表した。 4の「都市系俳諧と地方系俳諧の関係を考える一歩とする」については、今のところ格別の進展は見られない。しかし、都市系俳諧と地方系俳諧の関係は、1~3の作業を進めながら考えていくべきことで、1~3の作業が順調に進んでいることから、4についても、成果が期待されるものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の「研究実績の概要」にも記した通り、平成28年度に関しては、予定していた通りの(あるいは、その予想をやや上回る)進捗状況であると考えている。以下、上記と重なることにはなるものの、1~4の項目ごとに、その状況を述べていく。 まず、研究実施計画の1に掲げた、宝永期後半から正徳期にかけての俳書に関する悉皆的調査は、享保以後の俳諧史をとらえるために不可欠な作業と位置づけている。その方法については、『元禄時代俳人大観』(八木書店)で自分たちが使った方法をそのまま応用することができ、俳諧資料の閲覧や撮影、複写物の入手なども含め、何の問題もなく進行している。 2の調査旅行は、メンバーの日程調整の関係で、28年度は1回にとどまったものの、その彦根市立図書館での調査は大きな成果をを挙げ、知られざる資料と遭遇することにもなった。その分析を通じて人的交流の実態を探る件についても、その見通しをつけつつある状況にあると言える。ただし、人的交流の様相を探ることについては、何らかの視点を導入する必要があり、その探索が今後の課題となっている。 3の、翻刻や注釈をすべき資料の選定については、多くの候補の中から欠かせない数点を選び出すに至っている。しかも、予定にはなかった(あるいは、次年度以降に行う予定であった)作業として、『雪の下芽』の翻刻、『五色墨』所収の「うぐひすや」歌仙 の注釈を断行し、いずれも論考として公表した。この点にについては、十二分の進行状況と言ってよいかと考える。 問題は、4の都市系俳諧と地方系俳諧の関係をより明らかにすることにある。これは、俳諧史上の大問題であり、一朝一夕に片が付くようなことではない。これの解明を4年間の最終目標にしている次第であり、1~3の作業を順調に進めながら、つねにこの問題を考え続けていくことにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度末の段階で、「研究実績の概要」や「現在までの進捗状況」にも記した通り、ほぼ予定通りの満足できる成果が得られていることから、平成29年度以降も、この流れに乗って作業を続けていきたいと考えている。研究計画の変更はとくに考えていない。課題はいくつかあり、そのことを含めて以下に記述する。ここでも、「研究実施計画」として挙げた4点に分けて記していく。 1として掲げた、宝永期後半から正徳期にかけての俳書に関する悉皆的調査は、すでに宝永期の分については作業を終え、正徳期の俳書に関する調査に入っている。すでに調査すべき俳書のリストはできているので、これまで通りの手順で作業を進め、「宝永正徳俳人大観」として発表をしていくことにしたい。 2の調査旅行は、いくつかの候補が挙がっており、優先順位を付けながら、それら機関・文庫などを順次訪問し、書誌的事項を探ると同時に、可能な限り写真撮影などを行わせていただき、研究に寄与させていきたいと考えている。なお、これに基づいて、俳人たちの人的交流の実態をまとめるためには、視点の構築が欠かせず、これが一つの課題と言える。 3の翻刻や注釈に関しては、書目の候補がすでに挙がっており、『東風流』の翻刻は実際に作業に入っている。この翻刻ができた段階で、そこから何を読み取るか、どのような人的関係や俳風の特徴を指摘することができるのかを、真剣に考えいかなければならない。そのために、やはり、享保・宝暦期俳諧を考える視点の構築が急がれるところである。また、『四時観』など重要な俳書の連句作品を具体的に取り上げ、注釈する準備も進めており、その際にはこれまでに培った方法を応用するつもりである。 4は、本研究の最終目標とも言うべきもの。4年間を通して、都市系俳諧と地方系俳諧の関係を、人的交流の問題として整理するだけでなく、具体的な作品を通して明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究の目的を果たすために設定した具体的な作業の一つとして、『東風流』という俳書の翻刻・分析がある。これについては平成28年度に着手し、29年度にほぼ作業を終えて、平成30年度ないし31年度に成果物としてまとめたいと考えている。そのための費用を準備しておく必要があるため、平成28年度の予算のすべてを使い切るのではなく、次年度以降に使う分として残余金を出すようにした。この点は、29年度も同様にする予定である。 また、研究分担者の玉城司は長野県に在住で、研究代表者らと共同の作業をするために上京する必要があることを想定し、旅費を多めに見込んでいた。ところが、家庭の事情などで、上京などの回数が少なかったため、平成28年度の旅費は少額に終わった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の通り、『東風流』という俳書の翻刻・分析をした成果を冊子としてまとめる予定であり、おそらくそれは平成30年度ないし31年度になると予想される。その印刷・製本の代金として、毎年度の支給額の中から少しずつ残余金を出しておきたいと考えている。 玉城司の旅費については、29年度は28年度よりも多くなることが予想される。
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