2016 Fiscal Year Research-status Report
日本近代文学と絵画のジャンル横断的交流に関する総合的研究
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16K02420
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
出口 智之 東海大学, 文学部, 准教授 (10580821)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒井 真理亜 相愛大学, 人文学部, 准教授 (90612424)
松本 和也 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (50467198)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 挿絵 / 新聞小説 / 樋口一葉 / 菊池幽芳 / 火野葦平 / 石井鶴三 / 中里介山 / 「大菩薩峠」 |
Outline of Annual Research Achievements |
近代日本の文学と美術の関係を考察することを目的とする本研究は、おもに明治期(出口智之)・大正期(荒井真理亜)・昭和期(松本和也)の形で、時代ごとに分担している。 まず、出口は明治期の小説作者が自作の口絵や挿絵を描く画家に出した指示の状況と、そうした絵画と小説との関係を探るため、樋口一葉に焦点を絞った論考を発表した。また、絵画における描写と文学を接続させるため、明治期の小説や紀行における風景描写を問題とし、学会発表を行ったり論考を発表したりした。 続いて荒井は、大正期の小説・挿絵・芝居の協働の事例として、菊池幽芳が『大阪毎日新聞』に連載した「百合子」の調査・分析を行った。「百合子」の成功には、鏑木清方による挿絵の存在が大きかったこと、さらに芝居化においても挿絵の影響が見られたことを研究会で報告した。 松本は火野葦平作・中村研一画「花と兵隊」を対象とし、昭和戦前期の新聞小説における挿絵の役割について考察した。特に、ルポルタージュの側面を持つ戦争文学において、挿絵がどのような役割を持っていたのかという点で、考究を進めた。 さらに三者の共同研究として、信州大学蔵「石井鶴三関連資料」の調査研究を進め、多田蔵人氏・高野奈保氏の協力のもと、おもに「大菩薩峠」の挿絵をめぐる中里介山からの来信全四十通を翻刻し、註釈を附して発表した。あわせて、出口は同作の挿絵制作の状況と、後に介山・鶴三間で巻き起った「挿絵事件」の性格について考察した論考を、また松本は同「石井鶴三関連資料」を用いて、別に歌集『靉日』をめぐる歌人・石原純と鶴三との交流を考察した論考を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各研究者がそれぞれ複数の論考を発表し、明治・大正・昭和戦前それぞれの時代について、従来知られていなかった文学作品と絵画との関係との関係を明らかにしつつある。これまでの先行研究では、文学と挿絵の関係はほとんど光を当てられてこなかった分野だけに、いずれも領域開拓的な論考であり、新しい知見を提出することができたと言えよう。当初の計画では、平成29年度以降の研究として予定していた火野葦平作・中村研一画「花と兵隊」の研究が本年度に行われたり、逆に平成28年度に行うはずであった明治期の雑誌の研究が翌年以降に繰下げられたりといった順序の変更はあるものの、総合的に見れば、いずれの時代に関しても研究は着実に進展していると見てよいはずである。 また、当初予定していた様々な新聞・雑誌等の媒体の調査、「石井鶴三関連資料」をはじめとする資料群の調査は、着手はしているものの、数が膨大であるだけに網羅的な成果として発表することは現時点では困難である。しかし、その一端は三者それぞれの論考、あるいは共著による石井鶴三宛中里介山書簡の翻刻・註釈などに反映され、具体的な論文に結びついている。 以上のような状況にかんがみれば、研究計画はおおむね順調に進展していると見てよいだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、三者が共同で行う作業として、「石井鶴三関連資料」の調査・研究を継続して進める。特に、本邦における本格的な漫画雑誌の嚆矢『東京パック』で活躍した北澤楽天からの書簡などを取扱い、大正期における漫画や挿絵の文化的位置づけを考察してゆく予定である。 個別の研究としては、出口は明治期の新聞における連載小説と挿絵との関係を考えるため、宮崎三昧・半井桃水といった作家たちが『東京朝日新聞』紙上で発表した作品を取上げて考察する予定である。すでに平成28年度中から研究には着手しており、おもに明治二十年代の同紙上で挿絵がはたしていた役割と、うかがわれる制作の経緯等について、具体的に明らかにすることを目指している。 荒井は、大正期に画家が主体的に小説を解釈して挿絵の制作を行いはじめていた事例を確認するため、引き続き『大阪毎日新聞』『東京日日新聞』の調査を進める。あわせて小説家や挿絵画家、編集者の回想や書簡なども参照し、大正期における小説・挿絵・単行本の制作状況の実態を明らかにしたいと考えている。 松本は、すでに着手した、火野葦平作・中村研一画「花と兵隊」を対象とした調査を継続的に進め、特に中村研一の他の新聞小説挿絵との検証を進める。また、宮本武蔵の挿絵下絵等について、松本市美術館での調査を進める。 以上の研究を通じて、引続き小説本文と挿絵との関係についての考察を深めてゆく予定である。
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Causes of Carryover |
調査協力にかかる人件費・専門的知識の提供に対する対価として一定の予算を計上していたが、出口・荒井・松本三者の周辺の人脈(大学院の後輩等)が厚意により無償で協力してくれたため、この部分にかかる予算が浮くことになった。また、年に数度開催した研究会・研究打合わせ会議についても、荒井の勤務地である大阪近辺で費用の発生しない会場を確保することができたため、予定していたその分の旅費・会場費を次年度以降の研究費として計上することになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記事由は主に個人的人脈による厚意によるものであるため、次年度以降は人件費等が発生することが十分に見込まれる。研究会についても、本年度と同等の条件で開催することは織込みにくく、また研究の進捗にともない、打合わせ等を頻繁に開催することが必要になると考えられる。よって、2016年度に生じた次年度使用額は、ほぼ2017年度中に消化されると考えている。
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