2016 Fiscal Year Research-status Report
児童文学におけるロビンソン変形譚の受容研究――「食」が示す「生きる力」の考察
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16K02431
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Research Institution | Kawaguchi Junior College |
Principal Investigator |
水間 千恵 川口短期大学, その他部局等, 准教授 (20591803)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 児童文学 / 児童文化 / 比較文学 / 日本文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画に従い、平成28年度は鳥島漂着民をモデルにした作品群の全体像を明らかにすることに注力した。 まずは、国内の図書館・資料館・博物館を訪問し、昭和20年以前に出版された作品および関連資料の収集を重点的に行い、それらを前年度までに収集していた昭和20年以後の作品とあわせて精査することで、通史の把握に努めた。そのうえで「食」に着目して作品の比較分析を行い、成果の一部(野村長平をモデルにした物語群に関する研究)を、日本児童文学学会第55回研究大会において「鳥島のロビンソン――土佐の長平をめぐる物語の変遷」のタイトルで発表した。本発表で明らかにしたのは、戦前・戦中期と戦後で「食」の意味が大きく変化することである。昭和20年以前の作品における「食」は、過酷な環境下でのサバイバルと生還という偉業を成し遂げた主人公の英雄性を際立たせるための小道具として扱われているが、戦後の作品での「食」には、生命の貴さや他の生き物との繋がり、さらには自然界の中での人間の位置づけといった哲学的問題が凝縮されている。これは、理想化される人間像の変化(国家に利益をもたらす英雄から、自然界の一員としての自覚をもった謙虚な生命体へ)でもある。本発表は、先行研究のなかった「純粋和製ロビンソン変形譚の通史」を明らかにした点のみでも極めて重要である。加えて、子どもを取り巻く文化環境の一つとして児童文学をとらえ、児童文化研究に繋がる素材提供を行った点に独自の価値が存する。 なお、中浜万次郎をモデルにした物語群に関する研究も計画通り進めており、その成果を国際学会で公表するために、平成28年度中に応募手続きを済ませた(審査通過・発表決定済)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において本年度予定していた調査・研究活動のうち、実施しなかったのは、高知県内での資料収集のみである。これは、先行して行った資料収集及び調査活動によって、優先して追及すべき研究課題が生じたことによるものであり、その点を追求した結果、当初想定していなかった有益な知見を得られている。このため、研究計画全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画のうち、平成29年度に予定していた八丈島での調査研究は行わない。これはそもそも作品の舞台となる鳥島自体に関する詳細な情報を入手できないための代替手段であったが、人的ネットワークの活用により、その情報を入手できる見込みがたったためである。 また、平成28年度に予定していた高知県内での資料収集を平成29年度に実施する。 さらに、平成28年度中の調査および研究の結果、古文書を参照する必要ががないことが判明したため、これに割く予定だった労力と経費はほかにあてる。 以上3点以外は、当初の研究計画に従って研究を遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
未執行予算の内容は以下の通り。 (1)国際学会参加時に使用を予定している小型パソコンについて、モデルチェンジ等を考慮して購入時期をずらしたことによる物品費の未消化 (2)調査の過程で、古文書を参照する必要性がないことが判明したことによる人件費の未消化
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1)物品費 パソコンを購入する予定 (2)人件費 平成28年度中の調査によって新たな研究課題として浮上している独語文献の調査に関して、専門家の助力を仰ぎたいと考えている。但し、国際学会参加に要する経費が、為替レートや燃料費の変動等により当初の予定よりも膨らむ可能性があり、その場合は旅費等充足のために使用することになる。
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