2018 Fiscal Year Research-status Report
児童文学におけるロビンソン変形譚の受容研究――「食」が示す「生きる力」の考察
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16K02431
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Research Institution | Kawaguchi Junior College |
Principal Investigator |
水間 千恵 川口短期大学, その他部局等, 准教授 (20591803)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 児童文学 / 児童文化 / ジェンダー / ロビンソン・クルーソー / 冒険物語 / アニメーション |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、当初の研究計画に基づき、(1)戦後のロビンソン変形譚の変化を明らかにすること、(2)子どもの文化環境をめぐる変化を明らかにすること、を中心に研究活動を進めた。 まず、(1)については、戦後の変形譚の変化を特徴づける「女性サバイバー」をキーワードに、その通時的変化について成果の一部を論文「女性サバイバーの労働――ロビンソン変形譚とジェンダ」にまとめるとともに、個別の作品研究を進めて日本イギリス児童文学会第48回研究大会にて「日本にやってきた女性サバイバー――Island of the Blue Dolphinsの受容」のタイトルで発表した。これらは、児童文学におけるジェンダー表象について新たな視点を提供するものであり、とりわけ後者は、綿密な資料調査に基づき、作品に対する従来の評価の見直しを迫った点に大きな価値があった。 (2)については、子どもの物語受容環境に革命的変化をもたらした映像媒体に焦点を絞り、そのなかでも最初に登場したテレビのアニメーションにおける変形譚について基礎調査を進め、1960年代と2000年代のアニメ版純粋和製ロビンソン変形譚を素材に、論文「テレビアニメのロビンソンたち――『冒険ガボテン島』と『無人惑星サヴァイヴ』」を執筆し、今後考察すべき論点抽出を行った。先行研究がないため、この論考は、関連分野の今後の研究には大いに資するはずである。 なお、前年度まで中心課題に据えていた(3)(文字テキストによって表現された)純粋和製ロビンソン変形譚の研究についても、総まとめとして、日本児童文学学会第57回研究大会にて、「日本のロビンソンから考える物語の多面性――土佐の長平をめぐる伝説、創作、教材」のタイトルで研究発表を行った。これにより児童文学の本質にかかわる問題がいくつか浮きぼりになり、本研究の射程が大きく広がることになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成30年度をもって完結する予定であったが、1年延長することとなった。当初掲げた課題は順調にこなしており、研究自体に遅延はない。研究過程において、当初予期していなかった大きな発見があったため、これを、本研究の主要テーマとなっている「ロビンソン変形譚研究」のなかでどこまで追求し、また、次の研究課題にどのように繋げていくかを慎重に検討し、場合によっては追加の調査・研究を行う必要が生じたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、前年度の発表をふまえて個別の論文を執筆するとともに、過去3年にわたる調査・研究の成果をまとめる。主な対象は(1)純粋和製ロビンソン変形譚、(2)女性サバイバーもの、(3)アニメ版変形譚、となる。 なお、本研究期間終了後には、これらの成果を、それ以前(本研究の研究期間開始以前)に取り組んできた研究成果とあわせることによって、日本の子どもたちが受容してきたロビンソン変形譚の全体像を明らかにし、そこから、独自性の高い日本児童文学・文化の通史編纂へと繋げることが目標となる。成果物の出版に向けた下準備も、本年度の実質的な研究活動と並行して行う予定である。
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Causes of Carryover |
残金は、研究期間延長に伴うものであり、最終年度に行う予定であった研究成果報告書の作成・送付費用が中心を占める。残りは、研究期間延長の要因となった、新たな研究課題に関する調査研究に配分するか、あるいは、前年度までに収集しきれなかった映像資料の入手費用にこれを充てる予定である。
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