2016 Fiscal Year Research-status Report
新潟市新津美術館所蔵・坂口安吾旧蔵書の調査に基づいた創作原理に関する総合的研究
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16K02432
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Research Institution | Kisarazu National College of Technology |
Principal Investigator |
加藤 達彦 木更津工業高等専門学校, 人文学系, 教授 (70321403)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 義光 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (10311044)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 坂口安吾 / 旧蔵書 / 創作原理 / 間テクスト性 |
Outline of Annual Research Achievements |
加藤達彦と山﨑義光は、個別に坂口安吾の文芸テクストならびに関連書籍や同時代の言説等にもとづいて対象作家の創作原理、およびその着想や思考様式に関する調査と研究を推進した。 加藤は、近年の文化・美術史の研究成果を踏まえながら、坂口安吾が昭和初期に提示した〈ファルス論〉を間テクスト性の観点から再検討した。安吾は〈ファルス論〉を通じて西欧文化の精神や文芸思潮を吸収しつつ、日本の近世文学に見られる「技術」を高く評価し、そのことで同時代的な写実主義の文学を徹底的に批判した。このような方法意識は、美術史家らが指摘する〈マニエリスム〉の発想に通底しており、以降もそれは安吾において〈逆説的綺想〉と呼びうるモチーフとして独自に昇華されていったと考えられる。 また加藤は、こうしたテクスト分析とは別に文献探査をもとに安吾の交友関係に関わる追跡を実施し、一定の書式でとりまとめを行った。 一方、山﨑は、安吾の戦後テクストに注目し、「堕落論」の後篇(「続堕落論」)を中心にこれと論点を共有する評論やエッセイ群も視野に入れながら、引用文献の調査にもとづいて考察を加え、研究を進めた。 さらに年度末には、加藤と山崎は、安吾の故郷である新潟を実地踏査し、新津美術館所蔵の旧蔵書に関する調査と研究について、あらためて蔵書および資料の所有者である新潟市へ許可申請を行った。その際、あわせて蔵書の管理者や関係者らと研究連絡会議を持って、蔵書調査のスケジュールと調査対象、およびその方法等について確認・協議し、ともに了承を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度途中の採択であったため、当初の研究計画からはやや遅れ気味であるが、加藤達彦と山﨑義光は、個別の関心に基づいて着実に坂口安吾の文芸テクストに関する分析を行った。また同時代の言説や文芸思潮との関わりについて調査を実施し、研究を推進した。 新津美術館所蔵の坂口安吾旧蔵書に関する調査については、安吾の故郷である新潟市を実地踏査し、旧蔵書や資料を所有する新潟市の関係部署へ調査許可の申請を行い、了承を得ることができた。 実際の保有者・管理者とは、研究遂行にあたっての注意点や研究の許容範囲を確認することができた。その上で研究分担者・研究協力者と協議して、あらためて本研究の全体像を視野に入れ、段階的な研究計画の見通しを立て、相互にスケジュールを調整しながら、逐次、調査・研究を推進していく段取りを確認した。 具体的には、若月忠信氏らの調査をもとに作成された『坂口安吾蔵書目録』(新津市文化振興財団)を参照しながら、旧蔵書の文献を再精査し、データの構築を中心に行うこととなった。 こうした協議を重ねるなかで旧蔵書全体に関する特徴を把握し、坂口安吾の創作原理を解明する研究の基礎となる中核的なテクストの論理と射程を見定める調査を推進することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
旧蔵書と資料に関する調査は、現状の保存状態を勘案しながら、大局的な分類をもとにまずは坂口安吾の文芸テクストに言及のある文献と彼自身による書き込みや傍線などの記しのあるものを重点的に行う。その過程で新たに発見された文献や書き込み等は、デジタルカメラやスキャナー等で記録・保存し、整理・分類をしながらデータの構築を図っていく。 蔵書資料は、晩年に残されていたものであるため、安吾の戦後における文学活動との関係を中心に本年度は調査研究を行う予定である。その際、安吾のテクストのなかで引用・言及されているテーマに沿って、歴史小説や評論・ルポルタージュなど、ジャンルごとにいくつかの系統にしたがって蔵書を選択して実物の調査に当たることとする。 加藤は、蔵書・文献資料の本文ばかりではなく、それらに掲載された挿絵や図版、写真等の視覚文化にも注目し、表象文化研究との接続も図りながら、調査・研究を推進する。 一方、山崎は「堕落論」を中心とする戦後の評論やエッセイ、小説などの創作原理に関する研究をさらに進め、これらのテクスト群と蔵書との関係を調査し、本研究の基礎とする。 調査・研究の成果については、各々が所属する機関の紀要や坂口安吾研究会の機関誌『坂口安吾研究』、あるいはその他の学術雑誌等へ積極的に投稿する。
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Causes of Carryover |
年度途中の採択であったため、当初の計画通り、複数回にわたる現地調査ができず、旅費等に減額が生じたため。 また年度内の使用に期日的な制限もあり、物品購入の一部を先延ばししたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度内に十分に行えなかった蔵書調査の旅費や資料収集、物品購入、研究成果発表等のために使用する。
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