2019 Fiscal Year Research-status Report
近世京都雅文壇における身分的境界領域の人々を中心とした学術交流に関する総合的研究
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16K02434
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
加藤 弓枝 鶴見大学, 文学部, 准教授 (10413783)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 小沢蘆庵 / 二十一代集 / 吉田四郎右衛門 / 蘆庵本 / 寛平御時中宮歌合 / 禁裏御書物所 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度はこれまでの成果を公表するとともに、予定していた研究を遂行することができた。具体的には、禁裏御書物所の書肆・吉田四郎右衛門によって刊行された正保版『二十一代集』の版種に関して論文としてまとめた(公表は次年度)。従来、本書は刊記に記される通り、正保4年(1647)に吉田四郎右衛門によって刊行されたとされてきたが、正保4年とは十三代集が刊行された年であり、八代集はそれより先行して出版された可能性が高いことを諸版調査を通して明らかにした。また、その書物としての様式の変遷を明らかにすることで、江戸時代における書物の身分についても言及した。 次に蘆庵本歌合集に関して調査を進め、論文を公表した。蘆庵本歌合集とは、近世中後期に上方歌壇で活躍し、和歌史上では「ただごと歌」の提唱で知られる小沢蘆庵(1723~1801)が、門弟らとともに安永8年頃から書写校合を行った歌合写本群の総称である。主要な伝本としては、蘆庵自筆の校合奥書や書き入れが残される、三河国の国学者・村上忠順(1812~1884)が旧蔵していた写本が挙げられる。現在それは、刈谷市中央図書館村上文庫と慶應義塾図書館とに分蔵される。その他にも龍谷大学図書館、今治市河野美術館、京都女子大学、関西大学図書館に存しており、いずれも村上忠順旧蔵本と同系統の本文を有することで知られる。本年度はこれまで実施してきた諸本調査の結果を踏まえ、蘆庵本歌合として最初に書写された『寛平御時中宮歌合』について考察した。その結果、従来、村上文庫本『寛平御時中宮歌合』は神宮文庫本の忠実な写しと位置づけられてきたが、そうではなく、両書は同じ親本を同時代に書写したものである可能性が高いことを明らかにした。そして、神宮文庫本と村上文庫本との関係に親本の存在を仮定するか否かは、近世中期の上方歌壇や文壇の解明にも繋がる問題であることを報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により年度末の出張が行えない事態にはなったが、現時点では大幅な研究の遅延は生じていない。ただし、次年度については書誌調査が予定通り行えない可能性もあるため、研究計画の見直しの必要性を感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は主に以下3点について研究を進める。一つ目は蘆庵本歌書のうち、歌合についてその全体像を明らかにすることで、近世中後期の上方歌壇の動向を明らかにする。次に、吉田四郎右衛門と同じ禁裏御書物所であった書肆の出版活動の実態について調査を進める。さらに、妙法院宮に出入りしていた絵師と歌人との間で制作された画賛の成立過程を明らかにする。以上の研究を進めることで、近世中後期における書物や絵画を介した学術交流の一端を詳らかにしたい。
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Causes of Carryover |
予定通り研究費は使用したものの、コロナ禍による出張中止などがあったため、少額ではあるが次年度使用額が生じた。翌年度の物品費に合算して使用する予定である。
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Research Products
(6 results)