2021 Fiscal Year Research-status Report
近世京都雅文壇における身分的境界領域の人々を中心とした学術交流に関する総合的研究
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16K02434
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
加藤 弓枝 鶴見大学, 文学部, 教授 (10413783)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 小沢蘆庵 / 非蔵人 / 私家集 / 蘆庵本 / 歌書 / 身分 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度もコロナ禍が継続していたことから、感染防止対策のために学外者の閲覧を中止している大学図書館などが多かった。よって、予定していた書誌調査については翌年度に行うこととし、WEB上で手に入れらる画像データと、これまで研究代表者が蓄積した書誌データや撮影データをもとに分析を進めることとした。具体的には、(1)非蔵人たちの和歌営為ならびに公務の実態、(2)江戸時代における歌書刊本享受の様相の2点について考察した。 まず、1点目については、京都女子大学蘆庵文庫に所蔵される『非蔵人盟約』と『歎歌道之興廃俳諧長歌二首』について取り上げた。『非蔵人盟約』とは折々に触れて非蔵人たちが提出した誓約書のようなもので、そこには非蔵人として守るべき事項などが記されている。蘆庵文庫には複数の盟約が保存されており、それらを分析することで、近世中後期の非蔵人たちが心がけていたことや、身分的境界領域にいた非蔵人にとって学芸とはいかなるものであったのかを明らかにした。なお、研究成果は、京都女子大学の紀要で発表した。 2点目は、蘆庵本歌書研究に関連するものである。研究代表者は蘆庵本歌書の解明に取り組んでおり、2020年度は写本で伝わる蘆庵本歌合集について考察した。その研究過程で近世期における歌書受容の実態を明らかにするためには、写本・刊本を区別なく取り上げる必要性を感じた。そこで、2021年度は江戸時代に刊行された私家集を整理分析することで、近世期における私家集享受の実態、ならびに書物観の変化について明らかにした。その成果は、『日本文学研究ジャーナル』20号で公表した。また、江戸時代の歌書でもっとも出版された百人一首についても考察を進めており、その成果は2022年度論文として発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研は2021年度が終了年度であったが、コロナ禍により、予定していた書誌調査を実施できない期間が長引いていることから、研究期間を延長することとした。研究計画も変更することになかったが、2021年度は調査へ出かけられない代わりに、WEBで手に入れられる画像データや、これまで蓄積した書誌データを考察することで、予定していた研究内容を遂行することができた。よって上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、コロナ禍により延期していた禁裏御書物所に関する出版物を調査し、それらを分析する予定である。まず、京都の書肆であった野田弥兵衛と禁裏との関係を実際の出版物などから考察する。また、これまで出版活動の実体を明らかにした、他の禁裏御書物所(吉田・八尾)も含めて分析することで、禁裏御書物所とは何者であったのか、その意義を明らかにする。またその過程で、身分と書物との関係などについても言及したい。 さらに、とくに身分的境界領域の人々が果たした役割を明らかにするため、引き続き蘆庵文庫に所蔵される古典籍や古文書を中心に分析を進める。とりわけ非蔵人の日記や詠草に着目し、それらの資料を通して、非蔵人が近世中後期の上方歌壇に果たした役割を明らかにする。 なお、2022年度より所属機関が変わったことから、研究環境の再構築が必要である。これまで購入しなくても使用できていた書物や機器も、研究遂行のために改めて揃えることとなる。
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Causes of Carryover |
2021年度もコロナ禍継続により、多くの調査先が感染防止対策のため関係者以外の閲覧を停止しており、予定をしていた書誌調査を行うことができなかった。調査へ出かけられない期間がこれほど長期にわたることは想定外であったが、年度末になって徐々に学外者による閲覧の受入を再開する図書館が出てきた。そこで、調査のための旅費を次年度に繰り越す必要が生じた。 また、2022年度に所属先が変わることとなったが、新しい所属機関には本研究を進めるための図書や物品が不足していることが判明した。よって、必要な物品を購入するための費用を次年度使用額として繰り越す必要があった。 2022年度は必要な物品や図書を購入することで研究環境を再構築し、予定していた書誌調査へも閲覧受付を再開した機関から順に出かける計画である。
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Research Products
(6 results)