2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02439
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大河内 昌 東北大学, 文学研究科, 教授 (60194114)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美学 / 趣味 / イデオロギー / 想像力 / ロマン主義 / 市民社会 / 道徳哲学 / 批評理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は研究計画の第一段階として、18世紀イギリスにおける美学の形成過程を確認した。18世紀イギリスの美学的探究の特徴は「趣味」の規準に関する議論という形を取ったことである。趣味とは「味覚」との類比から想定された直感的な判断能力であり、合理的推論の埒外にある人間の感情、情緒、想像力に関わる能力でありながら、理性的判断に似かよった普遍的妥当性をもつ判断を下すことができると考えられていた。趣味はいわゆる美醜の判断だけでなく道徳的善悪の判断にもかかわる能力とされていた。問題は、なぜ18世紀イギリスで理性と身体的感覚の中間に位置する趣味という能力に、重要な機能が付託されるようになったのかということである。18世紀イギリスは近代的な商業社会が形成され始めた時期であり、商業社会は人間の欲望や野心といった情念を肯定する社会である。それゆえ、個々の市民の情念を肯定しながら、彼らを調和ある社会へとまとめ上げてゆくような原理が必要となっていたのである。そうした原理は情念を統括する心的機能である想像力の洗練の中に求められるようになった。そして、洗練された想像力は趣味と呼ばれるようになった。つまり、市民社会が内包する社会的・文化的な問題に対応するために、趣味という能力の解明が要請されたと考えられるのである。したがって、趣味の問題を考察することは、そもそも近代とは何か、近代的市民社会が孕む問題とは何かを文化的・思想的視点から考えることにほかならない。本年度の研究においては、シャフツベリー 、バーナード・マンデヴィル、フランシス・ハチソン、ケイムズ、デイヴィッド・ヒュームらの趣味論を概観し、彼らの議論に共通する問題を抽出することによって、18世紀前半の時期におけるイギリスの趣味論の射程を探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は18世紀イギリスにおける美学の展開を包括的に概観することを試みた。そのためにシャフツベリー、バーナード・マンデヴィル、フランシス・ハチソン、ケイムズ、デイヴィッド・ヒュームらの著作を精読し、それらを通して流れている大きな問題の輪郭を描いた。研究の内容、進度ともに交付申請書に記載した研究目的と計画に従って、極めて順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は個別の作家に焦点を当てることで、イギリスの美学の展開に内在する問題をより深く調査する予定である。具体的にはデイヴィッド・ヒュームの虚構に関する理論を読解し、その歴史的意義を同時代のイギリスで勃興した小説という文学ジャンルとの関連で検討する。それによって、虚構という美学的問題の背後に存在する政治的・イデオロギー的な問題機制を解明できると思われる。
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Causes of Carryover |
本年度に未刊行であった図書を購入する予定があるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入予定の図書が刊行され次第、購入する計画である。
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