2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02439
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大河内 昌 東北大学, 文学研究科, 教授 (60194114)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美学 / 趣味 / イデオロギー / 想像力 / ロマン主義 / 市民社会 / 道徳哲学 / 批評理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はイギリスのロマン主義時代における美学の問題を、想像力(imagination)の理論とその社会的背景という観点から分析した。ロマン主義は芸術家を創造的天才ととらえ、その特徴を想像力の働きという点から説明する点で大きな特徴がある。それは個人に内在する感性的な能力に美学的判断の根拠を見出す18世紀的な趣味(taste)の理論の発展形として理解できるが、ロマン主義の想像力理論には趣味論との断絶も見られる。趣味論は芸術作品の美質をいかに判断するかという受容の理論であるが、想像力理論は芸術作品はいかに生み出されるのかという創造の理論なのである。美学的探究の焦点が受容から創造にシフトした最大の要因は、文学生産がパトロン制から商業出版に移行したことである。それは芸術家に創造の自由をもたらすと同時に、彼を社会的に孤立させる原因ともなった。匿名的な読者大衆と向き合うことになった作家・文人たちはみずからを一般社会と孤絶した「天才」と位置づけることによって、読者大衆やそれと結びついた商業出版のシステムからみずからを防御しようとしたのである。今年度の研究においては、イギリス・ロマン主義の作家サミュエル・テイラー・コールリッジの自伝作品である『文学的自叙伝』を取り上げ、ロマン主義の美学を特徴づける想像力論や天才論が、商業出版の普及と読者大衆の勃興に対する心理的防御として機能していたことを検証した。昨年度に取り組んだ18世紀イギリスの趣味論の形成の文脈に今年度の研究を接続することによって18世紀初頭のイギリスにおける美学の誕生から、19世紀初頭のロマン主義美学の成熟にいたるイギリスの美学の生成過程を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は19世紀初頭のロマン主義の美学を社会的な文脈から理解する研究を進展させた。ひとつのケーススタディとしてイギリスの詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの美学理論の生成過程を分析した。それにより、昨年度に調査した美学の萌芽形態としての18世紀の趣味論から美学の成熟形態としてのロマン主義期の想像力理論への移り行きのプロセスを解明することができた。研究の内容・進度とも交付申請書に記載した研究目的と計画に従って、極めて順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、美学理論と文学作品の関係をより詳細に調査する予定である。とくに、18世紀の美学や認識論における現実もしくはリアリティーに関する議論と、リアリズム小説における現実描写の誕生の関係を検討する。経験論的な特徴を持つ18世紀のイギリス哲学は、人間が現実を理解する過程における「観念」や「印象」の問題と取り組んでいる。観念や印象は文学批評的な用語でいうなら「表象」(representation)の問題にほかならない。こうした観点から考察を進めることで18世紀イギリスにおけるリアリズムという新しい「虚構性」の誕生を、より幅広い文脈から理解できるようになるはずである。
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Causes of Carryover |
本年度に未刊行であった図書を購入する予定があるため。購入予定の図書が刊行され次第、購入する計画である。
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Research Products
(1 results)