2018 Fiscal Year Research-status Report
ウェールズ英語文学の研究─二〇世紀産業小説とナショナリズム・共同体
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16K02444
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
河野 真太郎 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 准教授 (30411101)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ウェールズ英語文学 / イギリス文学 / ポスト産業社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は主に(1)20世紀から21世紀のウェールズ英語文学作家についての個別研究(2)Raymond Williamsの後期著作とそこに現れたエコロジー思想についての比較研究(3)北ウェールズ、アングルシー島におけるエネルギー政策の現状についての実地調査の三つに大別することができる。 (1)については、とりわけ現代作家のRachel Treziseについて、作品を検討するなどの研究を進捗させた。Treziseは現代のポスト産業的な南ウェールズを舞台とする作品を発表している作家であり、本研究課題の主要なテーマの一つであるポスト産業状況について深い洞察を与えてくれる作家である。これについては、日本英文学会大会シンポジウムで発表した。このTreziseも含め、ウェールズ英語文学短編集の編集・翻訳作業も順調に進捗し、来年度には出版される予定である。また、Cambridge大学出版から出版されたFutility and Anarchy: British Literature in Transition 1920-1940に、Lewis Jonesについての論文を発表した。(2)については、1980年代のWilliamsのエコロジー思想について検討を進めつつ、それをKarl Marxそして宮崎駿に見られるエコロジー思想と比較する研究を進捗させた。これについては次年度の国際学会(Raymond Williams Society主催)で発表する予定であり、発表の申し込みは受領された。(3)については、北ウェールズの原子力発電所建設に反対する地元住民と、建設を進める現地の企業、そしてウェールズ議会議員などへの聞き取り調査を行い、炭坑産業が不在となった現在のウェールズの産業の現状について、実地の経験も含めた洞察を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年次計画で予定していた、Association for Welsh Writing in Englishの年次大会への参加、ならびに同学会の学会誌への論文の投稿は実現することができなかった。しかし、年次計画に挙げた(1)Raymond Williams研究(2)戦間期ウェールズ文学(3)戦後ウェールズ文学については、当初の計画通りかそれ以上の進展を見せている。 まず(1)については、Williamsのエコロジー思想について、Karl Marxと宮崎駿との共通性を指摘する研究が大きな進展を見せ、これについては次年度に国際学会で発表する予定である。(2)については、Cambridge大学出版から出版されたFutility and Anarchy: Transitions in British Literature 1920-1940に、Lewis Jonesについての論文を発表した。これまでそれほどに顧みられることのなかった1930年代ウェールズ文学を、イギリス文学の新たな歴史観を示した上記の研究書の中に位置づけさせたことは今年度の最大の成果である。(3)については、Gwyn Thomas、Rhys Daviesなどに加えて、現代作家のRachel Treziseについての研究を進めた。これらの作家については、研究計画で示したウェールズ文学短編集に収録する予定の作家でもあり、その短編集の編集と翻訳は順調に進捗している。来年度中には出版する予定である。 以上のような研究の進捗から判断すると、研究課題全体は研究計画通り、もしくは計画よりも順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究課題の最終年度に当たるため、これまでの研究成果の発表を中心として研究を進めていく。 これまで、国際学会で口頭発表をしたまま活字化していない研究がいくつかあるため、それらをできる限り活字化していく。具体的にはEmyr Humphreys、Virginia Woolf、村上春樹を比較した研究、Raymond Williamsの小説Loyaltiesを冷戦リベラリズムと共同体の観点から考察した研究である。これらの研究については国内外問わず学会誌などに発表の場を求める。 また、前年度に研究を進捗させた、Raymond Williams、Karl Marx、宮崎駿におけるエコロジー思想の比較研究については平成31年度4月の国際学会(The First Annual Conference of the Raymond Williams Society)で発表する予定である。(受理済み。)この研究についても、可能であれば活字化をして発表を目指す。 次年度中に、準備を進めてきたウェールズ文学短編翻訳集を出版する。これによって、20世紀ウェールズ英語文学の広く深い世界の一端でも世に示すことができればと考えている。
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Causes of Carryover |
国際学会および海外のアーカイヴ調査をする予定であったが、代替的な国内学会での発表があり、またアーカイヴ調査をする前段階の文献調査を国内で行っていたため、それらのための費用を次年度に繰り越し、次年度にそれらの研究活動を行うことにしたため。
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