2017 Fiscal Year Research-status Report
ヒューマニズムと宗教改革が近代初期イングランドの演劇に与えた相乗的影響
Project/Area Number |
16K02445
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
高田 茂樹 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (40135968)
|
Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
|
Keywords | 近代初期イギリス / 宗教改革 / ヒューマニズム / シェイクスピア / 演劇 / 『冬物語』 / 『ヘンリー六世』 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度には、論文「崩れゆく世界の中で--シェイクスピア『ヘンリー六世』三部作--」(上)の中で、来年度に発表予定の後半部と併せて、この三部作について、背景に考えられる当時の教育や説教を通して培われたあるべき信仰や社会についての理想と、その実態との乖離を前にして、劇作家が、自らの創作を通して、どう対処したのか考察している。今回は、そのうち、こういった理念が育まれて、破綻していく歴史的な過程と、そういった社会状況をシェイクスピアが、『ヘンリー六世・第一部』の中で、いかに写し出し、そういう問題が人の内面にどのような影響を及ぼすのかを、さまざまな社会関係を体現した人物たちを通して描写している様子を解明し、以後の「第二部」・「第三部」についての議論に繋いでいる。 その一方で、「〈成り上がりのカラス〉は懐古する--『冬物語』のだまし絵」の中で、シェイクスピアの最晩年の作品の一つである『冬物語』について、これを、自身の芸術を完全に自律したものとしてではなく、インターテクスチュアリティの多元的な広がりの中で生起するものと見做し、それを自らを超えた超越的な力の顕現として表現するシェイクスピアの晩年の芸術的な境地を論じた。こういった認識は、単に芸術上の感覚というにとどまらず、内面で神と一人向かい合うとものから、むしろ、一緒に体験される共生としての信仰へという宗教観の展開を示しているとも考えられ、今後さらに検討していきたい点である。 本論は、学会で口頭発表し、論文のかたちでは未発表だが、既に完成しており、従来の論文と併せて単著の論集として刊行するべく、現在、出版社と交渉中である。 また、当時の宗教的な論争の文献に取材したボールドウィンの 『猫にご用心』 (1561)については、翻訳がほぼ完成しており、早期に出版に漕ぎつけて、その文学的・思想的な重要性を明らかにしていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に計画したとおりに、初期の『ヘンリー六世』三部作と、最後期の『冬物語』について、論文を執筆して、シェイクスピアのキャリアの中で最初期と末期において、ヒューマニスト的なあり方と宗教的な心性とがどう関わっているかをそれなりに解明することが出来た。『ヘンリー六世』論については、30年度に後半を執筆することになり、また、『冬物語』論と『猫にご用心』については、出版社との交渉を纏めて、論集と翻訳の出版を実現させるなど、課題が残っているが、全体としては、順調に推移している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度に当たる平成30年度には、まず、29年度に執筆した〈成り上がりのカラス〉は懐古する--『冬物語』のだまし絵」を含む、単著の論集を刊行することを最優先に取り組む。この論集は、これまで執筆・公表してきた『ジュリアス・シーザー』、から『あらし』に至る、悲劇、問題劇、ロマンス劇など、計7つの戯曲の作品論を含んでおり、1600年頃以降、シェイクスピアがその芸術観や宗教観、さらには人間観をどのように展開し変遷させていったかを系統的に探れるように工夫している。 また、29年度に著した「崩れゆく世界の中で--シェイクスピア『ヘンリー六世』三部作--」の前半部では、作品の背景にある歴史的状況と、『第一部』における確固たる主従関係や人々の信頼関係とそれと表裏一体の宗教意識の弱体化の過程を追ったが、30年度に執筆予定の後半部では、『第二部』・『第三部』を通して、そういう関係や意識がさらに崩壊していって、人々が完全な精神的荒廃に陥っていくさまが描かれているのを追う一方で、その中で、新しい人間像や宗教意識の萌芽が示唆されていることを論じて、それが、後に続く『リチャード三世』や、その先の英国史劇後期四部作へと主題的に繋がっていくことを論証したいと考えている。 30年度に『冬物語』を含めた後期シェイクスピア演劇の展開の道筋を単著の書物として発表すると述べたが、この『ヘンリー六世』論でもって、『ヘンリー六世』から『ヘンリー五世』に至る1590年代のシェイクスピアの英国史劇についても、自分の作品論がひととおり揃うかたちになる。こちらも若干の修正を加えて、二、三年のうちに単著の論集として刊行したいと考えている。 その二冊でもって、シェイクスピアの初期から晩年に至るまで、彼の人間観や宗教観、悲劇観を系統立てて論じることになり、喜劇は別として、シェイクスピアの演劇芸術の全体像を示せると考えている。
|
Causes of Carryover |
論文の執筆に予想よりも時間が割かれたため、資料の収集に十分な時間が当てられなかった。また、発注した本も、絶版であったり、中古でも「可」としたものも結局入手できなかったりして、期間内に購入できなかった。 今期は極力早めに発注するとともに、可能な購入先について、積極的に図書館に情報を伝えるなどして、遺漏のないように努める。
|