2016 Fiscal Year Research-status Report
近代初期英国における食事文学についての歴史的・文化史的研究
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16K02447
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
滝川 睦 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (90179573)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 食事文学 / 近代初期英国 / 食文化 / 宴 / 『ハムレット』 / 『テンペスト』 / 文化のリハーサル / 自己の生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は以下のとおりである。 (1)近代初期英国の食事文学を分析し、そのジャンルを同定し、食事文学の諸相をデータベース化した。(2)近代初期英国における食事文学に関するこれまでの研究の系譜と傾向を明らかにし、本研究の批評視座を確立した。(3)近代初期英国における食文化の諸相と、当時の家政・ドメスティシティの概念との関連性について歴史的に解明した。(4)近代初期英国における生理学・調理学・食餌学・栄養学などの学問領域における一次資料と食事文学・食文化との関連性を歴史的・文化史的視座から解明した。(5)上記の分析の結果を総合して、近代初期英国における食事文学のジャンルの生成と発展のメカニズムを解析した。(6)上の五つの成果を総括する形で、シェイクスピア劇において表象される宴の分析を行った。『ハムレット』においては一幕二場から最終幕にいたるまで宴の表象に満ちているが、それらすべての宴の表象は五幕一場の墓場において想起される宴に収斂する形で配置されている。五幕一場で想起される宴は、古代ギリシアの詩人シモニデスが古典的記憶術を発明した際に用いた宴のエクタイプであり、『ハムレット』における記憶のテーマを前景化・深化させると同時に劇のアクションを新たな方向へと展開させる契機となる記憶装置である。『テンペスト』三幕三場において表象されるハルピュイアの宴もまた宮廷人たちの過去を想起させる記憶装置として働くと同時に、スティーヴン・マレイニーが唱える近代初期特有の「文化のリハーサル」の実践でもある。近代初期英国の宮廷においては、宴が自己を生成するモメントであったのだが、本劇においては宴は消失し、劇中で生成されるはずの自己も空虚なものとして表現されている。『ハムレット』も『テンペスト』も近代初期英国における食事文学の系譜に掉さしていることを歴史的・文化史的視座から解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「研究の目的」欄には、近代初期英国における食事文学の諸相を歴史的・文化史的に解明すること、とくに16世紀から17世紀における食事文学のジャンルを焦点化することによって、そのジャンルの特異性を明らかにし、当時の食文化の諸相を、歴史的・文化史的視座から解明すること、さらに当時の食事・食物や食文化に焦点を合わせることで、近代初期英国文学のキャノンの見直しを行うと同時に、そうした食事文学の隆盛と、ロンドンをはじめとする当時の英国都市や周辺地域を結ぶ農産物の生産と消費、交易、家政学、栄養学、健康学さらには当時の食事や食文化をめぐるエコシステムの関連性を解明することを本研究のねらいとしたが、それらのねらいのどの項目に関しても、平成28年度の研究実施計画に基づいて研究が行われ、当初期待していた研究成果を収めることができたから。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記載した「平成29年度の研究実施計画」「平成30年度の研究実施計画」どおりに研究を行う。
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Causes of Carryover |
平成28年度に出版されるはずであった書籍(物品費)が、次年度に延期されて出版されることとなり、28年度中に購入することができなかった。ついては、その書籍を平成29年度に購入するために、その書籍の購入予定金額を次年度使用額とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上の「理由」で述べたように、平成28年度に購入する予定であったにもかかわらず、出版が延期されている書籍を次年度使用額にて購入する。
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