2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02448
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
岩上 はる子 滋賀大学, 教育学部, 教授 (40184858)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ディキンズ / 熊楠 / アストン / 竹取物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イギリスにおける初期ジャパノロジストの一人であるF.V.ディキンズの日本研究を検証評価し、ディキンズに関する初の評伝をまとめることにある。 初年度はディキンズによる日本文学翻訳の第4作目となった『竹取物語』の英訳をとりあげた。ディキンズは初版を1888年に出版しているが、その後、大英博物館で南方熊楠と出会い改訂に乗り出し、1906年に出版された "Primitive and Mediaeval Japanese Texts"のなかに、題名も新たにした改訂版を収録した経緯を跡づけた。 また、初版と改訂版を比較検証し、ディキンズが『竹取物語』をどのように捉えていたのか、また推敲過程におけるディキンズの物語に対する理解の深まりを追った。これまで熊楠の日記や書簡の記載を根拠に彼の助力によってディキンズが全面的な改訂を行ったとする見方がなされてきたが、実際の修正はディキンズが必要な情報を熊楠から引き出し訳文の推敲に務めていたことを伺わせている。また、外交官W.G.アストンによる『日本文学史』に収録された抄訳と比較することで、ディキンズがきわめて原文に忠実な緻密な訳を目指していたことを明らかにした。 初年度のもう一つの課題である『方丈記』訳は熊楠と共同で進められたことが書簡のやりとりから明らかだが、1907年に出版された際にはディキンズ訳となっていた。熊楠は猛烈な抗議を行うが、果たして最終の訳文はディキンズによって相当な推敲がなされていたことがわかる。ディキンズが熊楠をどのように活用していたのか詳細な調査を要する。現在、研究に着手しているが論考をまとめるにはしばらくの時間を要する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は『竹取物語』と『方丈記』を検討する予定であったが、4月から2年任期で国際センター長を任ぜられ、授業担当と部局長の業務によって研究時間を確保することが困難であった。国内外の調査を予定していたがまとまった時間が取れず、日本学関連の資料収集などは思うように進んでいない。当面はディキンズの翻訳の検証などの直接的な課題を進めているが、評伝の大枠となる日本研究に関する研究の計画に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の大きな枠組みとして、イギリスにおける日本研究の動向を描くことを想定しているが、調査研究に出かける時間が確保できないことから、当面は収集ずみの資料によって書けるディキンズの日本文学翻訳の研究に集中する。 二年目には積み残しとなっている『方丈記』に関する論文を早期にまとめ、後半には予定されている『飛騨匠物語』を取りあげる。なお、『万葉集』の検討は相当程度の時間を要するので三年目にまわすことにする。 これまでの10数本の論文の整理を始め、評伝の全体の構成を考えることにも着手する。
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Causes of Carryover |
本研究の申請時にはまったく予期していなかったが、急遽、2016年4月より国際センター長(2年任期)に任ぜられ、業務が多忙を極め研究時間の確保が難しく課題が進まず、調査研究・学会発表等の準備が不十分となり、結果的に出張できず旅費に残額が生じた。また、購入予定の資料が版権切れになっていることから、データベースの活用によって閲覧が可能になったこと、購入予定の資料の刊行が遅れたことなどにより、当初予定の資料購入費にも余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
二年目も業務の多忙さは変わらないが、夏休みなどの比較的余裕のある時期に調査研究の時間を確保する。関連資料の購入を迅速に進める。
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Research Products
(5 results)