2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K02448
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
岩上 はる子 滋賀大学, 教育学部, 名誉教授 (40184858)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | F.V.ディキンズ / E.サトウ / G.アストン / 葛飾北斎 / 富嶽百景 / ジャポニスム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イギリスにおける初期の日本研究を牽引した一人であるF.V.Dickins(1838-1915)について、これまで必ずしも光があたることのなかった日本研究のパイオニアとしての足跡を明らかにすることを目標としている。 3年目の本年度は、前年度に口頭発表したディキンズ訳『方丈記』を大幅に加筆修正して論文にまとめ、学会誌に投稿採択された。続いて、「ディキンズと北斎」という新たなテーマに着手した。『富嶽百景』を本格的にヨーロッパに紹介した先駆者としてのディキンズの功績は、これまで等閑視されてきた。だが、1880年に出版されたディキンズの『富嶽百景』訳以降、イギリスにおいても日本美術関連の出版物が相次ぐことになる。この意味でも、ディキンズの先駆的な役割は明らかである。本研究では、シーボルトに始まるヨーロッパにおける北斎受容の背景も視野に入れながら、ディキンズの研究の特徴とその後への影響を論じている。 ディキンズはさらに1906年に『北斎漫画』についての小論を発表し、晩年には北斎の挿絵をふんだんに用いた六樹園飯盛『飛騨匠物語』を翻訳している。これが最後の出版物であり、いわばディキンズの日本研究は北斎に始まり北斎に終わったということができる。これらの2作について引き続き研究する予定である。 本年度はこれまで3期にわたって書きためた論文を整理・調整する作業に着手している。この間に得た新たな知見を組み込む必要や、重複部分の調整などにかなりの時間を要することがわかった。また、ディキンズに関する研究が国内外において進み始めており、最新の研究動向への目配りしつつ、改訂版を作成しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
定年退職により研究時間を確保できるようになり、余裕をもって資料の分析にあたることができた。ケンブリッジ大学図書館での資料収集も実施でき、評伝出版に必要な画像等の確認を行えた他、北斎受容の関連情報も入手できた。 本年度のテーマである「ディキンズと北斎」は大きな広がりを見せ、当初は『富嶽百景』『北斎漫画』『飛騨匠物語』を一括して扱う予定であったが、ヨーロッパにおけるジャポニスムの背景(とくに北斎受容)を視野に入れる必要があり、研究の期間延長を申請した。 また、研究成果発表の基金に応募するための構成の検討し、原稿の整理・調整を開始した。全体像の完成のために必要な課題を確認する一方で、これまでの論文の改訂に着手するなど、研究計画に沿って作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の延長が認められたので、本年度は①「ディキンズと北斎」の後半を仕上げる ②ディキンズの最大の翻訳『万葉集』について、最初の邦訳『百人一首』とともに論じる ③研究成果発表の基金申請に向けて準備する、の3つの課題を達成したい。 ディキンズの日本研究に関するまとまった著作は1997年に川村ハツエ氏による『F.V.ディキンズー日本文学英訳の先駆者』以降、国内外を通じて出版されていない。それ以降、著作集や書簡集などの基本資料は整い、近年になって研究が進んでいるが、それでも全体像を捉えるのは壮大な試みである。3期にわたって展開してきた本研究を十全なものとするためには、さらに「日本語研究」と「博物学研究」のテーマを加える必要を感じている。 ディキンズは在野の日本研究者であったが、サトウやアストン、チェンバレンとならぶ学術的なレベルの日本研究を展開している。その功績を正しく評価するには、イギリスにおける日本研究の発展という文脈のなかで考察する必要がある。さらに相当な時間を要することが予想されるが、先行研究の活用を通して能率的に進めていきたい。
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Causes of Carryover |
在職中の校務多忙により研究時間の確保が難しく、課題の遂行が計画通りに進まず、常に前年度の積み残しを処理することに追われた。最終年度においても遅れを挽回するには至らず、予算全顎を消化することができなかった。 研究期間の延長が認められたので、残額を資料購入、出張費、成果発表などに有効に使用していくつもりである。
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Research Products
(3 results)