2018 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア四大悲劇の翻案研究――日本的な「書き換え」メカニズムの解明
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16K02449
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
芦津 かおり 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (30340425)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シェイクスピア / 悲劇 / 翻案 / 書き換え / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本で生まれたシェイクスピア四大悲劇の翻案作品を対象とするものである。30年度には、4月にある研究会で行った研究発表を行った際のディスカッションがきっかけになり、当初は予定していなかった論考を一つ追加することとなった。それは批評家・小林秀雄による翻案「おふえりや遺文」(1931)に関するものである。日本における『ハムレット』の翻案を体系的にとらえる試みにおいて、本作の議論を抜くことはできないという認識にいたり、小林が当時抱いていた言語観と本作との関係性を考えた。結論としては、小林は本短編執筆を通してシェイクスピアの原作世界を批評するとともに、ヒロイン・オフィーリアの言語と主体性を取り戻そうとしているのだという結論を得た。その成果はすでに論文として刊行ずみである。 さらに7月には日本比較文学会でも講演を行ったが、その際には、本研究課題の骨格となる概念―「股倉から『ハムレット』を見る」―を用いて、これまでの研究を大きく捉えなおすことができた。「股倉から見る」というのは、夏目漱石『吾輩は猫である』からの借用である。語り手の猫(漱石)は、文豪シェイクスピアや名作『ハムレット』をうやうやしく眺めるだけではなく、ときに「股倉から見て」批判する精神が重要であると指摘し、漱石自身もそれを実践した。本研究が扱う各翻案もそれぞれ異なる方法で、世界の「名作」を、まさに「股倉から見」るかのように、反転させたり、視点をずらした形で書き換えて、独自の『ハムレット』の景色を描き出しているという点で、私の構想を表すのにはきわめて的確な表現である。30年度後半はこのテーマにそって研究書の執筆をすすめ、ほぼ完成させることができた。これは本申請課題の総決算のひとつとする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上でも述べたように、予定外の論文を一本追加した関係で、全体の予定はすこし遅れた。ただし、本課題にはきわめて有益かつ必須の考察であったので、全体としてこの遅れはよい結果をもたらすものになると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は4大悲劇をそれぞれ対象として考察をすすめるつもりであったが、現実的にはかなり厳しいことが判明してきた。当初から据えている三つの主題軸は保ちつつ、対象作品をシェイクスピア代表作である『ハムレット』に絞って、全体的な仕上げに移ろうと考えている。そしてその集大成として、現在ほぼ完成している著書を仕上げるとともに、他のシェイクスピア作品の翻案例を用いて、さらに肉付けを行い、奥行きと広がりを与えたいと考える。
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Causes of Carryover |
予定外の論文を書いたせいで、予定していた学会等への参加がかなわなくなってしまった。また、英語論文執筆が書けなかったため、校閲に予定していた費用を使用しなくなったから。 平成31(令和1)年度に、予定していた作業を行い使用する。
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