2016 Fiscal Year Research-status Report
自己保存と自己実現の修辞―アンドリュー・マーヴェルの敵と友
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16K02450
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉中 孝志 広島大学, 文学研究科, 教授 (30230775)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アンドリュー・マーヴェル / 庭 / ウィリアム・ワーズワス |
Outline of Annual Research Achievements |
マーヴェルが、人間関係を調整する際に使った詩という表現方法は、同時代の庭、植物や花と密接に関わっているという仮説の下に研究を行った。作庭と作詩との共通項を考察するため、現存もしくは復元された18世紀、19世紀初頭の庭を研究し、良好な人間関係を強める一つの装置として「隠しておいて驚かせる」造園方法に注目した。例えば庭の中で突然、廃墟が目に飛び込んでくる典型的な例として、Richard Hill (1732-1809) が作った、シュロップシャーのHawkstone Park があること、ワーズワスが1824年に訪れたランゴレンの Plas Newydd の庭の木陰からも Castell Dinas Bran の廃墟が目に入っただろうことを実地調査によって発見した。また、ワーズワス一家がダヴ・コテッジを引っ越した後に住んだグラスミアのアラン・バンクの庭にはヴィクトリア朝期の眺望トンネルが残っており、裏山の森を抜けて、この暗いトンネルを出ると(残念ながら現在ではトンネルの前の木が眺望を妨げているが)、館の庭とグラスミア湖が眩く目に飛び込んでくるように配置されている。ワーズワスがコウルリッジと共有した心地よい驚きの体験は、湖水地方で落差最大の滝と言われている Scale Force を深く木々に覆われた峡谷の断崖の裂け目の中に発見した時もそうであったが、そのいわば縮小版の驚きを人工的に庭は再現できる。ウィルトシャーのStourhead Landscape Garden は人工的に川をダムで堰き止めて湖を造り、その周りを巡る訪問者がある地点で鉄橋を渡りながら、それまで気付かなかった音に顔をそちらに向けた時初めて、人工的に作られ配置された滝を発見して驚くように仕組まれている。これらの知見をこれまでのマーヴェル研究に統合して本研究の成果の一部として著書として纏める執筆作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
場所としての庭、および植物や花は、イデオロギーに左右される人間関係の調整機能を担うことがあるという仮定を立証するために、その前段階としてワーズワスの庭を調査し始めたが、本来の研究対象であるマーヴェルの表現技術へ戻る前に、本研究の成果の一部を学術図書として発表することとなった。成果発表のための科学研究費を申請するため、著書としての完成原稿を執筆することが急がれ、当初に想定した研究計画を十分に執行する時間が不足したため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に予定していたように、William Davenant のGondibert を再読するとともに、王党派の仲間たちに読まれるために書かれたと考えられる選詩集 Madagascar (1638) を精読することによって、ダヴェナント周辺の人物たちの相関図を構築しつつ、彼がロンドン塔に監禁されていた間に、王党派への背信が疑われる表現をしているのかいないのかを考察する。また、今回の研究では、ハートリブとマーヴェルの思想的接点を至福千年思想に求める為、終末思想を含めた研究書、関連書籍の購入とともにその整理と内容の統合を行う。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた書籍の出版が遅れたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究書の購入に使用する。
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