2017 Fiscal Year Research-status Report
読む行為を贈与として捉える可能性と意義についての基礎的事例研究
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16K02451
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
宮原 一成 山口大学, 人文学部, 教授 (10243875)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 贈与論 / 読み行為 / 英語文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
読み行為を贈与交換と捉える枠組みの妥当性をいわば傍証的に主張する論考を完成し、日本英文学会九州支部第70回大会(10月21日~22日)において、「テクストを読む行為を贈与論で捉えるアプローチの可能性-それぞれの論争に共通するもの」と題して研究発表を行った。この研究発表では、1920年代から1970年代を経て現代に至るまでの、贈与論における有力な主張の変遷と、読者論における有力な議論の変遷を並べて観察し、両者の経年進行のあいだに顕著な共通性があることを指摘した。鍵になるのはデリダの純粋贈与の概念と、受容美学や読者反応理論である。いずれも行為の起点となる者(授与者・書き手)の存在感を希薄にしたいという傾向を持っているのだが、近年になって、そうした者の存在をしかと認識することの方が倫理的に望ましいと見る懐古的傾向が現れている。このような指摘を示した。 この論考は、本研究の大枠を起承転結に見立てるならば、「転」の部分を担うことになる見通しである。ほかに、文体論を扱う学会やテクスト研究の方法論を論じる学会において、テクスト処理の認知的な図式化に関する知見を得、また、テクストを受容した者が行う反対贈与のひとつの形として「アダプテーション」という手法・現象を考察する可能性についても、有益なヒントを得た。文学と贈与の関わりを扱う国際学会への参加を計画していたのだが、本務校での業務が多忙になったためこれは残念ながら断念せざるを得なかった。 平成29年度の終わり頃から、本研究の序(起承転結でいえば「起」にあたる部分)の論文を書き始め、7割方完成している。また、具体的な事例研究として、イアン・マキューアンの小説『贖罪』に見られる読み行為表象を贈与論で論じる論文にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度までは順調に推移していたが、平成29年度になって予想外の本務校業務増大があり、研究の進度を若干落とさざるを得なくなった。具体的にいうと、勤務している学部において、教職課程の英語課程が再課程認定を受けるための準備を行う責任者に任ぜられたため、本研究にあてるエフォート率が下がるという状況が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で言及した業務について、とりあえず目途が立ったため、今後は研究進展のエフォートは申請時に予想していた率に戻すことができる見込みである。現在書きかけている複数の論文の完成を急ぎ、最終年度である30年度中の発表(活字媒体もしくは口頭発表)を実施していきたい。発表先の目標は定めてある。また勤務している学部の社会学講座に、贈与や社会交換についての造詣が深い研究者が着任し、その教員たちのアドバイスを仰ぐ算段も付けることができた。この環境をじゅうぶん活用していきたい。
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Causes of Carryover |
申請時に予定していた国際学会への参加を断念したため、その旅費が平成29年度中には使用されないままとなった。翌年度には、贈与論や文学論関係の図書購入の他に、研究成果の発表を行うための旅費などに助成金を使用する計画である。
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Research Products
(1 results)