2017 Fiscal Year Research-status Report
手引書としてのマーティノー『経済学例解』研究--物語による専門的知識の普及
Project/Area Number |
16K02456
|
Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
松本 三枝子 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90165910)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ハリエット・マーティノー / ジェイン・マーセット / イギリス文学 / 手引書 / 経済学 / 女性作家 / ユニテリアン主義 / 社会小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はハリエット・マーティノーの『経済学例解』を手引書の観点から分析することにより、十分な知識を持たない一般の人々に、有益な専門的知識を普及するための有効な方法とその特性を明らかにすることを目的としている。 本年度は、19世紀初期に新しい学問であった経済学理論を一般の人々、特に労働者や女性達が、理解しやすいように、物語を用いて経済学理論のシミュレーションを提示した『経済学例解』の有効性と先駆性を検証することであった。 分析方法として、ジェイン・マーセット『経済学対話』(1817)とマーティノー『経済学例解』(1832-34)との比較研究を実施した。経済学を一般の人々に解説するという企画は必ずしもマーティノーが最初ではない。マーティノー自身が言及しているように、ジェイン・マーセットという先達がいる。ただしマーセットの『経済学対話』は対話により、この学問を解説することであり、家庭教師であるMrs. Bとキャロラインが問答を重ねることにより、経済学を学ぶという平板で単調なものである。それゆえ、読者はおのずから女性に限定される傾向にあった。それに比較して、マーティノーの『経済学例解』は、同時代の社会問題を語る物語のなかで、経済学のシミュレーションを提示することにより、多くの読者を獲得した。この方法は、極めて大きな成功を収め、一般の人々を含めて、当時の政治家たちにまで影響力を持つに至っている。マーティノーはこのシリーズにより作家としての名声を確立すると同時に、19世紀イギリス文学史において重要な社会小説に対しても先駆的な影響力を持つに至ったと考えられる。 以上の研究成果を、研究論文「Harriet MartineauとJane Marcet-対話から物語へ」等で公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の実施計画である、複雑で難解な理論のシミュレーションに、物語を用いることの有効性と先駆性の検証をマーセットの『経済学対話』との比較により考察を進めることができ、研究成果を研究論文などで公表できた。 マーティノーが『経済学例解』で目指したのは、彼女自身の言葉によれば「経済学の理論を具現化したもの、見ればすぐにわかる絵のようなもの」である。本研究では、「経済学理論の具現化と見ればすぐにわかる絵のようなもの」という目的に、なぜ物語という手法が有効であったのかを分析した。マーティノーは、専門的知識のない人々に、経済学理論を解説し理解を進めるためには、理論の具体的なシミュレーションが必要であると考えた。マーセットが選択した女教師と女生徒の対話という表現方法は、読者を女性に限定することになり、入門書として分かり易いが、平板で、単調なものとなった。それに比較し、マーティノーが『経済学例解』で選択した物語という表現方法は、経済学を教えるという要素と読み物として楽しむという要素とが共存していたために、多くの読者を獲得し、大きな影響力を持ったことなどを詳細に研究論文などで明らかにし、研究発表もできた。
|
Strategy for Future Research Activity |
複雑で難解な理論のシミュレーションに、物語を用いることの有効性と先駆性の検証をさらに、イギリス文学史における社会小説との関係などを視野に入れて、考察を深める。 本研究では、「経済学理論の具現化と見ればすぐにわかる絵のようなもの」という目的に、なぜ物語という手法が有効であったのかについての分析を継続する。マーティノーは、専門的知識のない人々に、経済学理論を解説し理解を進めるためには、理論の具体的なシミュレーションが必要であると考えた。『経済学例解』に収められた各々の物語は、理論のシミュレーションとしての手引書の側面と、読み物としての文学的側面を併せ持っていることが、多様な読者を獲得できた理由であることをさらに分析する。
|
Causes of Carryover |
(理由)国内はもちろんイギリスにおいても、極めて研究が少ないジェイン・マーセットに関する研究状況を把握するのに時間を要しているためである。
(使用計画)国内のみならず、主にイギリスにおいてマーセット関係の研究論文を入手するために、イギリス出張を実施する。加えて、これまで構築してきた、ハンナ・モア、ハリエット・マーティノー、ジェイン・マーセットの比較研究を通して、最終的にマーティノーの自由主義的な思想と、彼女の物語の文学性について考察を深めるために、関係書籍、研究資料を入手し、学会出張、イギリス出張を実施する。最終年度であるので、研究成果をシンポジウムなどで公表する。
|
Remarks |
書評、松本三枝子、「June Skye Szirotney, George Eliot's Feminism: "The Right to Rebellion." (Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2015),xi+284 pp.」『ジョージ・エリオット研究』第19号、2017,83-96.
|