2016 Fiscal Year Research-status Report
19世紀英文学とジャーナリズムに見る〈新しい男〉像の生成と文化的・歴史的意義
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16K02458
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
田中 孝信 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (20171770)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 19世紀英文学 / ジャーナリズム / 新しい女 / 新しい男 / セクシュアリティ / ジェンダー / 道徳的性格 / ディケンズ |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀末の英国に〈新しい女〉と共に出現した〈新しい男〉の生成とそれに至る過程を文学とジャーナリズムを通して探るにあたって、本年度は〈新しい男〉を定義した上で、その原型を世紀半ばのディケンズ作品に登場する人物に求めた。 〈新しい男〉は、〈新しい女〉の社会的・政治的活動を助ける賛同者と理解できる。世紀末小説の中では、彼女のロマンティックな恋人でもある。彼は〈新しい女〉と共にロマンティックなパートナーシップという進歩的なモデルを育み、共感と癒しを分かち合える人物として描き出されるのだ。伝統的な結婚のプロットへの挑戦とも言えよう。〈新しい男〉はセクシュアリティの点からも重要である。なぜなら、〈新しい女〉は従来の男性の性的乱交を批判し禁欲を求めるからである。彼女たちの多くは、夫が婚外性交を慎み、妻を対等に、尊敬の念を持って扱うことを求めたのだった。 〈新しい女〉作家たちは男性に規律を要求したわけだが、これは、ヴィクトリア朝中期の福音主義の流れを汲むものと判断できる。福音主義者たちは、性的体験を多く積むことこそが男らしいとする風潮を断ち切ろうとした。その代わりに、「性格」こそが若い男性の間での貴重な規範として機能することを目指したのである。ディケンズは、この道徳的性格と性的節制を『デイヴィッド』中のトラドルズ像に誇張した形で体現させている。彼は主人公デイヴィッドの人生の節目に影響を及ぼす重要な役割を担い、結婚後は妻と共に「公私の調和のとれた結合」を実現するのである。『大いなる遺産』のハーバートは、このトラドルズの改訂版と言える。ハーバートでより強調されるのは、主人公ピップに対する看護に見られるような、男性の優しさであり、それが資本主義的競争に代わり得るものとして提示されるのだ。要するに、理想のジェントルマン像には、男性間の協力と寛容さが付与されることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属研究機関の校務多忙のため、ディケンズ以外の19世紀中期の作家の作品にまで十分目を通すことができなかったが、共編著『セクシュアリティとヴィクトリア朝文化』の序章執筆に際して、世紀末帝国主義の「マッチスモ」信奉や唯美主義のホモセクシュアルな欲望との間で〈新しい男〉像を捉え、定義を試みることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は世紀末の〈新しい女〉小説中の〈新しい男〉を具体的に取り上げる。特に女性作家の描いた〈新しい男〉像と、男性作家、具体的にはギッシングとアレンの作品における〈新しい男〉像とを比較検討することで、その革新性と限界を明らかにしてゆく。それに関連する資料を閲覧するために大英図書館を訪問する予定である。
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Causes of Carryover |
発注していた物品(洋書)が期日までに納品されなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記物品(洋書)が4月には届く予定なので、その購入にあてる。
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Research Products
(2 results)