2017 Fiscal Year Research-status Report
19世紀英文学とジャーナリズムに見る〈新しい男〉像の生成と文化的・歴史的意義
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16K02458
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
田中 孝信 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (20171770)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 19世紀英文学 / ジャーナリズム / 新しい女 / 新しい男 / ギッシング / 都市 / 消費文化 / セクシュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は〈新しい男〉の観点から、世紀末の作家ジョージ・ギッシングの作品、とりわけ『余計者の女たち』(1893)と『渦』(1897)を分析し、昨年度取り上げたディケンズ作品中の男性像との比較検討を社会的・文化的背景を踏まえつつ試みた。 ディケンズのハッピー・エンディングを潔しとしないギッシングは、〈新しい男〉を目指した男性たちの葛藤をリアリスティックに描き出す。それは、同時期の多くの〈新しい女〉小説家たちが、〈新しい女〉の人間的成長を中心に展開する物語の単なる脇役として男性を用いたのとは大いに異なる。ギッシングの作品は、因習的な家父長制志向と、女性との平等な協力関係を築こうとする進歩的なモデル、その二つのベクトルに引き裂かれた世紀末の男性の内面を際立たせて描写するのである。〈新しい男〉らしさ獲得の実験は、結局のところ失敗する。だが、そうした不満足な結末を描くことでギッシングは、社会の変貌に尻込みしつつも、抑圧的なまでの性役割や結婚制度を間接的に批判し、〈新しい男〉登場の必要性を唱えているのである。 規律、厳格さ、そして女性嫌悪と結びついたヴィクトリア朝人が〈新しい男〉を創造したというのは、ヴィクトリア朝の男性性やジェンダー関係に関する私たちの理解の幅を広げる。結婚のプロットを伴う小説中に〈新しい男〉が登場するほどに結婚制度が硬直し、世紀末の遥か以前から厄介な問題を孕んでいたことの表れであると考えられよう。 〈新しい男〉は理想の人物像であり、〈新しい女〉との理想郷を完全には実現できないのかもしれない。だが、ディケンズもギッシングも新しい男女の結びつきを模索していたのは事実だ。そしてそれは、男性はかくあるべしという、イデオロギーとしての「男性性」に縛られ、心身ともに疲弊した男性自身の解放をももたらすのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
所属研究機関の校務多忙のため、ギッシングの主要な作品にしか目を通すことができなかったが、昨年度の研究成果は今年度中に出版される共著『ディケンズとギッシング』に所収される予定である。その中では、ディケンズとギッシングの比較検討のみならず、『パンチ』等の中産階級向けの雑誌にみられる〈新しい男〉観やオリーヴ・シュライナーのような〈新しい女〉作家たちの男性観にも言及することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成30年度は、過去2年間の遅れを取り戻しつつ、男女間のみならず、階級間にも目を向ける。中・上流階級の男性たちがセツルメント活動を通して確立しようとした労働者階級の男性たちとの新たな関係、すなわち前者の後者に対する共感の念の中に、従来とは異なる「男らしさ」を見出し、〈新しい男〉像へと論を展開していきたい。それに関連する資料を閲覧するために大英図書館を訪問する予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)昨年度の夏季休暇中にイギリスに出張する予定だったが、老父の病気・入院のためかなわなかった。 (使用計画)今年度の夏季休暇中にイギリスに出張する予定であり、その費用にあてる。
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Research Products
(2 results)