2016 Fiscal Year Research-status Report
古典修辞学とグラマトロジーの協働-「書かれた声」としてのヒュー・ブレアの修辞学
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16K02464
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
兼武 道子 中央大学, 文学部, 教授 (30338644)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 古典修辞学 / プラトン / デリダ / ヒュー・ブレア / 文体論 |
Outline of Annual Research Achievements |
古典修辞学の伝統とデリダのグラマトロジーの相関関係を建設的に捉え直し、その中にヒュー・ブレアの修辞学理論を位置付けることを目的とする本研究において、2016年度は理論的な基盤を整えることに主に注力した。 具体的には、 ①プラトンの『パイドロス』とデリダの「プラトンのパルマケイアー」をあわせて読解し、論文作成に向けて立論の道筋を明らかにするとともに、プラトン批評史におけるデリダの論考の位置・意義を確認した。 ②デリダの『哲学の余白』に集約的な形で表されている古典修辞学批判の妥当性について検証を進めた。特に、言葉の有意味性と無意味性をめぐるデリダの考察を再検討するにあたって、ブレアの『修辞学・文学講義』が重要視する接続詞や関係代名詞・関係副詞などの「小さな言葉」の概念に注目した。巧みに節を配置し、「小さな言葉」を使ってそれらを組み合わせて構成した音楽的な掉尾文に美的な価値を見いだしたブレアの修辞学は、統語性や言語経験の継起性を重視する点において、西洋形而上学を背景とした比喩偏重などの存在論的な思考に対して有効な疑問を呈していたのではないかと考えた。これを「統合と分断」というテーマの論としてまとめ、成果を7月にイギリス・ノリッチで開かれる国際学会で発表する。 また、上と並行して、18・19世紀英国の女性詩人やヴァージニア・ウルフなどの女性作家と、古典語・古典修辞学の伝統との関係についても関心を持ち、文献を読んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プラトン研究の文脈におけるデリダの役割を確認することと、デリダの古典修辞学批判を検討し直すことという目標に向かって研究を進めた。初年度である2016年度はプラトンとデリダの関係に焦点を当てて考察する予定であったが、実際はブレアの修辞学も考察の対象としたことで、後の年度の作業を一部前倒しにして行うことになった。しかし全体の進捗という意味では大きな影響はなく、問題はない。
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Strategy for Future Research Activity |
7月に発表する国際学会でのフィードバックをもとにしてプラトンとデリダについての考察をさらに進め、論文の執筆や学会での発表を通して古典修辞学とグラマトロジーの相関関係を積極的に評価することで、最終的にはブレアの修辞学が持つ現代性を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
備品や消耗品などに予想よりもお金がかからなかったから。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
書籍を中心に使う予定。
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