2020 Fiscal Year Research-status Report
古典修辞学とグラマトロジーの協働-「書かれた声」としてのヒュー・ブレアの修辞学
Project/Area Number |
16K02464
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
兼武 道子 中央大学, 文学部, 教授 (30338644)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ヒュー・ブレア / 古典修辞学 / グラマトロジー / デリダ / 比喩 / 女性詩人 / 古代ギリシア / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、主に2つの分野で研究を行った。 まず、ヒュー・ブレアの修辞学とデリダのグラマトロジーの接続可能性を探るため、ブレアの比喩論に注目した。デリダは、"White Mythology"の中で、アリストテレス『詩学』の暗喩についての記述には、西洋形而上学の存在論が典型的な形で現れていて、古典修辞学はアリストテレスに立脚することにより、存在論的な思考に加担し、これを補強してきたという。デリダはブレアから引用を行いつつ、論を展開する。しかし、該当箇所をブレアの修辞学理論の文脈において考え直してみると、ブレアの別の様相が見えてくる。ブレアにとって比喩は、古典修辞学の主要な関心事ではなく、比喩を含む語彙の問題よりも、構文などの統語の問題の方が重要だと考えて、接続詞や関係詞などの、デリダのいうところのphone asemosを重視していた。また、デリダが批判したような、"proper"な語彙使用からの逸脱としてではなく、語彙が発生してから"proper"な用法を獲得する過程として比喩を捉えていた。さらに、比喩が創造的な仕方で現実を分節化するheuristicな機能を持つことに注目し、言語の柔軟性を文学の実践と結びつけて高く評価していた。これらの点で、ブレアの比喩論は、ポール・リクールの比喩論に近い一方で、デリダとも通じる面があることを論文として発表した。 次に、古代ギリシア文化の英国における受容の研究の一環として、19世紀の女性詩人オーガスタ・ウェブスターの2つのモノローグ"Circe"と"Medea in Athens"を研究した。いずれの詩も「前ギリシア的」な地母神が語り手となっていて、オデュッセウスとイアソンという家父長的な権威を体現する人物との葛藤を通して、ヴィクトリア時代のジェンダー・ヒエラルキーの構造を批判的に考察していることを、口頭発表にまとめ、概要を公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
古典修辞学とデリダのグラマトロジーの接続可能性については、研究が進展してはいるが、当初の計画よりはやや遅れている。その一方で、当初は具体的な形になっていなかった、古代ギリシア文明と19世紀イギリスの女性詩人という研究テーマが形をとり、こちらについては、想定にはなかった成果があがっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も、ブレアの修辞学とデリダのグラマトロジーについての研究と、19世紀イギリスの女性詩人と古代ギリシアについての研究を並行して進め、2つの分野で研究を行ってゆく予定である。
|
Causes of Carryover |
感染症の影響で、研究旅費を使うことができなかった。また、オンライン授業への対応に労力を割いたため、資料を探したり書籍を購入したりすることに、予定していたほど時間をとることができなかった。
|
Research Products
(4 results)