2021 Fiscal Year Research-status Report
古典修辞学とグラマトロジーの協働-「書かれた声」としてのヒュー・ブレアの修辞学
Project/Area Number |
16K02464
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
兼武 道子 中央大学, 文学部, 教授 (30338644)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 古典文学 / 19世紀女性詩人 / クリスティーナ・ロセッティ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は研究よりも校務を優先せざるを得ない局面が多く、系統立った研究は思うようには進まなかった。とはいえ、いくつかの収穫もあった。 19世紀末葉から20世紀初頭にかけて活動した女性古典学者ジェーン・ハリソンとモダニズム文学・芸術についての数冊の研究書を読んだ。 ウォルター・ペイターの_Greek Studies_、_The Renaissance_、テニソンの_The Princess_、T. S. エリオットの_Four Quartets_を読んだ。 19世紀女性詩人の作品を読んだ。特にクリスティーナ・ロセッティの中・長編詩を入念に読み、"An Old-World Thicket"という作品について論文を書いた。この詩は、自然と詩人というロマン派的な枠組みで論じられてくることが従来は多かったが、その自然「描写」は写実的というよりはむしろ、古典文学から受け継がれた定型的な「ロクス・アモエヌス」や「混樹の森」の系譜に属する性格が強いことを明らかにした。また、従来から言われてきたように、ダンテ『神曲』やスペンサーの_The Faerie Queene_の影響を強く受けているだけではなく、ミルトンの_Paradise Lost_からの影響もあり、ロセッティは女性詩人として叙事詩の伝統に応答しているのではないかという指摘を行なった。さらに、詩の冒頭においては、ボードレールの「万物照応」の詩学も彷彿とさせるような、象徴主義的で純粋詩をも志向するような書法がみられるという解釈を提示した。この論文は2022年度内に出版予定である。 古典ギリシア語の勉強は通常のペースで続けている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、従来から関心を持っていたいくつかのテーマについての研究書を読んだり、作品を精読したりすることができ、その意味では有意義な研究活動ができた。しかし、ヒュー・ブレアの修辞学というテーマに関して言えば、前年度に書いた論文を一つの区切りとして、直ちに研究成果に結びつくようなその先の展開はあまりなかったので、上記の評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
この先しばらくは、芸術至上主義やクリスティーナ・ロセッティとの関連で現在読んでいるA. C. スウィンバーン関係の各種文献を読み続ける。これと並行して、マイケル・フィールドなどの女性詩人の作品も読む予定である。 詩の形式や文体の変遷を通時的に捉えることに興味が出てきたので、修辞的な側面や古典との関連に注目しながら、できるだけ多くの詩作品を読みたいと思っている。
|
Causes of Carryover |
感染症の影響で、当初予定していた研究のための海外渡航ができなくなったので、残余が生じた。次年度もおそらく書籍購入を中心とした出費になる予定である。
|