2017 Fiscal Year Research-status Report
英国スチュアート朝の演劇舞台 ─その衣装・演出と商業劇団の係わり─
Project/Area Number |
16K02468
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
小林 酉子 東京理科大学, 理工学部教養, 教授 (60277283)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 英国ルネサンス演劇 / 舞台衣装 / 宮廷饗宴 / ジェイムズ朝 / 商業劇団 / 商業劇場 / 都市型道化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、スチュアート朝に急増する王室饗宴と、これに関与し王室メンバーのお抱えとなった商業劇団が、宮廷で、また民間劇場でどのような劇をどのような衣装・演出で演じていたのか、その実態と劇場閉鎖に至る経緯・関連性を歴史的に明らかにすることを目指している。 平成29 年度は前年から引き続いて宮廷マスク(仮装仮面劇)、宮廷上演劇に関する文献資料による研究を進めるとともに、ジェイムズ1世が英国王となるまで過ごしたエジンバラ城、ホリールードハウス宮殿、ロンドンへ移動する途上、歓迎式典の行われたヨーク・ミンスター、Merchant Adventurers’ Hall で実地調査を行った。マスクや劇公演が行われた宮殿大ホールでは、当時の上演規模を実見できる。城館での舞台構成は、民間劇場での演出にも影響を与えたと考えられ、実見調査は王室演劇舞台、民間演劇舞台の双方を考察する上で欠かせない。またヨークでは、有力商業ギルドが所有した建物Merchant Adventurers’ Hallがほぼ当時のまま現存している。ロンドンのギルドのホールでも、国王・王妃を招いた饗応が行われており、実見調査は当時の演出の実態を研究する上で有益であった。 シェイクスピアが座付き作者であった宮内大臣一座は、ジェイムズ代に国王一座となって宮廷との関わりを深め、マスクや上演劇の演出・衣装を、民間劇場でも利用できる範囲で取り入れたのではないかと考えられる。一座は室内劇場ブラックフライアーズ座を所有して、富裕層の観客を集め、劇中劇を含み、衣装・舞台効果に金をかけた劇上演が可能になった。ロンドン経済の好況、成り上がり貴族の出現、ファッション熱は商業劇場での芝居に反映し、それまでにない「都市型」の道化像が生まれることにもつながった。29年度はこれらの点を明らかにした論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究計画は、スチュアート朝演劇のうち、王室演劇舞台、宮廷マスク、宮廷上演劇に関する研究を進めることで、実地調査と文献研究は概ね順調に進んだ。ジェイムズ朝になり、国王、王妃、王子、王女がそれぞれ劇団を抱え、商業劇団と宮廷の関係はより近くなった。このことは商業演劇にも影響し、舞台の道化像がエリザベス時代から変化したことを明らかにした。研究成果の日本語論文は29年度内に刊行されたが、英文論文は査読に時間がかかり、刊行は30年度に持ち越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
ジェイムズ朝になると、商業劇団は宮廷マスクに出演したほか、宮廷での劇公演の回数も増加した。このような宮廷と劇団のつながりは、商業演劇にも影響を与え、市井の劇場でも、マスク場面を組み込んだ劇が上演され、特別な舞台衣装も用意されるようになった。劇中劇を組み込んだシェイクスピアのThe Tempest (1611)等が生まれたのもこの時期である。The Tempest はホワイトホール宮のほか、民間劇場でも上演されたが、王侯貴族、妖精、野人等の登場人物の他、劇中劇には虹の女神や豊穣の女神が現れる。これらの人物はどのような姿で舞台に立っていたのか、劇団はどのように衣装を調達していたのかは未だに明らかになっていない。 今後の研究では、戯曲本文の他、宮廷マスクデザイン画、宮廷饗宴局会計簿、貴族邸での饗応記録等をもとに、宮廷および商業劇場での上演劇の衣装を再現し、演出の実態解明を目指す。また国際学会で研究発表を行うことが決まっている。
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Causes of Carryover |
2017年12月開催の国際服飾学会研究会(関西学院大学)に出席予定であったが、家人がインフルエンザに罹患したため、取りやめた。また、購入を予定していた学術図書の刊行が遅れたため、購入できなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。 平成30年度には上記の図書は刊行されると思われ、購入を予定している。また4月初旬に国際誌に論文掲載が決まり、掲載料の支出が見込まれること、8月に国際学会での研究発表が決まり、海外旅費の支出が見込まれる。次年度使用額と決定済み助成金は、これらの用途および研究書購入に当てる計画である。
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