2020 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア作品におけるグローバル経済の影響と物質文化への人々の関心
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16K02471
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
勝山 貴之 同志社大学, 文学部, 教授 (30204449)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ルネッサンス演劇 / シェイクスピア / 近代初期演劇 / グローバル交易 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、グローバル経済とシェイクスピア演劇の関係を探求しようとするものである。グローバル交易の時代に、経済の発展は人々の心象に大きな影響を与えた。当時の経済状況の変化を解き明かしながら、様々な交易品がどのように社会に流通し消費されたのかを解明することによって、人々の物質欲を探求し、それぞれの演劇作品の中にあとづけたい。 中世から近代初期へと時代が移り変わるなか、交易が盛んになり、市場が拡大されることによって、益々交換によって生ずる価値の重要性が認められるようになった。そうしたなか、従来は商品とは見做されず、交換されることなど思いもよらなかった物までもが、交換可能な商品へと変化した。「土地」「労働」「貨幣」の三つはまさにその代表的なものであろう。封建社会では、貴族や荘園領主が代々譲り受けるものであった土地は、経済力を得た中産階級の勃興により、「不動産」となって売買されうる商品と様変わりした。また、封建的主従関係の中で生涯にわたり主人に仕えた使用人たちは、賃金労働者となり、彼らの労働は時間単位で売買する商品へと変貌した。更に、貨幣は、利子を付けて貸し出すことによって利益を生み出すことから、これもまた商品となり得たのである。こうした変化は、必然的に人間そのものの主体性や人間関係に変化を及ぼさずにはおれなかった。海外との交易が盛んになり、ロンドンが大きく経済的に飛躍する時代を生きたシェイクスピアは、まさにこうした「交換」によって物事の価値が決まることを当然とする時代の到来を、目の当たりにしたはずであり、劇場を埋め尽くす観客たちもまた、そうした変化を肌で感じていたに違いない。 シェイクスピアの作品の中に、グローバル経済の影響を辿りながら、従来の作品分析に新たな切り口を見つけていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既に科研の研究期間を通して、シェイクスピアの執筆した『間違いに喜劇』における取引所の機能を論じ、『じゃじゃ馬馴らし』においては貿易経済と土地経済の関係性を解明してきた。更に『空騒ぎ』において言及される輸入品に対する比喩の研究や、『トロイラスとクレシダ』における貨幣の貶質と為替問題の考察を通して、それぞれの作品の中に見られるグローバル経済の影響について論じてきた。 昨年10月に予定されていた日本英文学会九州支部大会が、コロナ禍により中止となり、参加予定のシンポジウムは今年度へと延期になった。またコロナ・ウィルス蔓延のため、春学期はキャンパスが閉鎖となり、ネット教材の作成に多大の時間を取られたこと、海外への渡航が一切できなくなったこと、学会活動などがすべて中止となったことなどで、研究計画の見直しが必要となった。2021年3月が、当初の科研研究期間の終了時期であったが、やむなく研究期間の延長を申し出ることとなり、研究計画の立て直しに努めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年6月に関西シェイクスピア研究会(zoom開催)での研究発表を予定しており、これを終えた後は、夏に論文執筆を予定している。また昨年10月に開催予定であった日本英文学会九州支部大会が延期され、今年に持ち越されたことで、シンポジウムで発表を予定していた『シンベリン』についての研究をあらためて準備するつもりである。 残念ながら今年度も海外の研究期間への渡航は難しく、国内の学会に関しても、どの程度開催されるか先行きが見通せない状況である。研究が遅れた分を取り返すべく、善処していきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、インターネット授業の導入および準備に多大の時間がかかり、研究を中断せざるをえなかった。また海外渡航も断念せざるをえず、海外の研究機関を訪れることも不可能となった。国内学会もすべて中止、または延期となったため、出張などの費用も不要となった。海外から届く予定の書物なども到着が遅れることがしばしばあり、予算執行の締め切りに間に合わないという結果となった。 以上の理由から、計画通り予算執行が進まなかった。 今年度は、計画を立て直し、より充実した予算執行をおこないたいと考えるものの、相変わらず海外渡航や国内出張は難しい状況が続き、キャンパスの授業もネット授業が継続され、先行きが見通せないことから不安を感じている。
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