2017 Fiscal Year Research-status Report
環太平洋的/惑星思考的想像力が描くnaturecultureとしての環境表象研究
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16K02474
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
松岡 信哉 龍谷大学, 文学部, 准教授 (50351333)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
湊 圭史 同志社女子大学, 表象文化学部, その他 (10598527)
清水 万由子 龍谷大学, 政策学部, 准教授 (60558154)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ネイティブアメリカン / 核表象 / 捕鯨 / 環境科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の個人ごとの実績概要は以下の通りである。 松岡は環太平洋的想像力の観点から自然と文化の関わりを明らかにするため、1)アメリカ文学におけるネイティブアメリカン表象の解析、2)日米の文学言説における核表象検証、を進めた。ユーラシア大陸からベーリング海峡を渡って両アメリカ大陸に広がったモンゴロイド系種族に属するネイティブアメリカンの文化は、トランスアトランティクな軸に属するヨーロッパ系白人の文化とは異なる。松岡はアメリカの主要な作家であり、かつネイティブアメリカンの文化に共感的なフォークナーとヘミングウェイのネイティブアメリカン表象を解析し、その環太平洋的想像力の有り様を跡付けた。また2)に関して、アメリカのドン・デリーロと日本の大江健三郎のSF的作品における核表象を比較し論じた。広島長崎への原爆投下において加害国であるアメリカと、被害国である日本からそれぞれ作家を選び、その核表象を比較する企図には環境正義の観点があった。検証作業の結果は、デリーロと大江の核表象には、相違点以上に共通点が多く見られることが明らかとなった。しかしながら、デリーロの核表象においては、技術に対する期待や希望がより多くふくまれているように思われた。 湊は文学言説における捕鯨のテーマに焦点を絞り、アメリカとオーストラリアの捕鯨を扱った作品を論じ、2編の論文を発表した。これらにおいて湊は、先住民の伝統的な文化に根をはる伝統捕鯨と、近代的な商業捕鯨を二分法的に分けて考える思考法に疑義をていしている。鯨を捕獲するという積極的意図を持って行われる捕鯨は常にすでに大量消費地としての都市における食肉需要を背景としてなされ、またそこでは肉の流通を可能にする保存技術の存在が欠かせない。 清水は上記両者の推進した計画に対して、メール、対面での打ち合わせ、研究会において環境科学の視点から有益なアドヴァイスを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本事業研究計画書に掲げた幾つかの観点、すなわちネイティブアメリカン表象、核表象、捕鯨などのテーマ系に即して、環太平洋地域の自然・文化観を明らかにするという目的が順調に果たされつつある。 松岡はフォークナーとヘミングウェイにおけるネイティブアメリカン表象についての論文を執筆した。本論文は平成30年度に公刊される予定の共著書に収録される。核表象に関わる研究については、エコクリティシズム研究学会第30回大会シンポジウムにおいて「核とポストモダン文学」のテーマでシンポジウムを行った。松岡は司会と講師を務め、本シンポを統括した。 湊はアメリカにおける商業捕鯨の拠点ナンタケット島等で研究調査を実施した。その目的はアメリカとオーストラリア地域における捕鯨の歴史と現在を検証することである。すでに公刊済み論文においての論及において生かされた本調査に基づく知見は、今後さらにこのテーマに関わって展開される議論に組み込まれてゆく予定である。 また本事業の研究体制を支えるサウスイーストミズーリ州立大学教授クリス・リーガー氏の日本招聘と講演旅行の準備が整い、平成30年度5月末から3週間にわたって実施予定である。この講演旅行においてリーガー氏は日本、中国、アメリカの作家における環境表象に焦点を絞り、講演を行う。平成29年度後半から、東京、名古屋、福岡、広島、関西の研究者たちと連携を取り、周到に準備を進めており、あとは実施を待つのみである。この一連の講演で得たフィードバックをもとにリーガー氏は共著書籍に論文を寄稿し、その日本語訳は松岡が務める。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本事業の海外共同研究者であるサウスイーストミズーリ州立大学教授クリス・リーガー氏を招聘し、全国6都市を回る講演ツアーが実施される。このツアーにおいてリーガー氏は本事業課題、環太平洋地域の文学における自然と文化の表象についての講演を実施し、全国の研究者たちからフィードバックを得て、さらにその研究を推進してゆく。より具体的には、リーガー氏はフォークナー、三島由紀夫、莫言の作品における自然と文化の関係について論じ、その環太平洋的想像力を検証する。この研究成果は、2019年刊行予定の松岡が共同編者を務める書籍において発表予定である。 また松岡はフォークナーとヘミングウェイにおけるネイティブアメリカン表象についての論文を共著書において出版するとともに、さらにこの内容を展開した発表をパリにおける国際学会で実施する。 また湊も捕鯨、もしくは日本文学における自然観のいずれかのテーマで、上に記した2019年出版予定共著に論文を投稿予定である。さらに本科研事業の一環として実施している科研研究会の参加者数名にも上記共著企画への投稿を呼びかけているところであり、本科研事業のテーマを共有する形で立ち上がったこの共著企画を通して、本事業課題の検証、推進を行ってゆく。 清水は環境の問題に関わり、物語の力、について環境科学の立場から知見・提案を示すため研究を進める。環境人文学の方法論は社会科学のそれとは異なるため、接点を探ることには困難を伴うが、清水の役割は本事業の学際的特徴を発揮するためには枢要である。
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Causes of Carryover |
当該年度に予定されていた海外共同研究者クリス・リーガー氏の日本への招聘が、先方のスケジュールの都合で平成30年度に延期になったため、平成29年度に予算を計上していた分を翌年度に繰り越した。 また研究分担者間で海外出張担当者を変更、それに応じて海外出張実施年度を1年遅らせた分についても繰り越しが生じている。具体的には、研究代表者松岡のパリでの学会発表が採択され、その実施年度が平成30年度であるため、未実施に終わった平成29年度の海外出張分経費を繰り越した。
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Research Products
(10 results)