2017 Fiscal Year Research-status Report
米国舞台芸術の理論と実践におけるサブジャンルの成立と発展―人形・仮面・演じる物体
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16K02483
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
戸谷 陽子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (30261093)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 人形劇 / 仮面 / モダニズム / 前衛演劇 / 実験演劇 / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、アメリカ合衆国の現代前衛舞台芸術における身体・越境・テクノロジー、文化政策、芸術/教育制度の諸問題について、対象を人形・仮面等の「演じるオブジェ」(John Bell、2006)、すなわち広義の人形劇に特化し、合衆国に独自に展開した前衛舞台芸術形式および実践活動として、その美学的・政治的戦略、ジャンルの成立史と制度化に至る過程を検証し、包括的な考察を行うことで、前衛舞台芸術および現代アメリカ演劇史に出現したひとつのサブジャンルとして再定位を試み、今世紀の展開を標榜するための新たな学術的指標を提示することにある。 平成29年度は、「米国オルタナティヴ演劇における身体および人形をめぐる実践―その政治性、芸術性」のテーマに沿い、1960年代以降の広義の人形劇の展開について検証を行った。具体的には生活者の視点から現代の祝祭的な人形劇を制作するPeter Schumann率いる①Bread and Puppet、そこから派生した②Great Small Works、③アジアの人形劇の形式と技術を領有しつつ作品を制作したLee Breuer、④パレードや大道芸等コミュニティアートの形態を追究するRalph Lee、⑤政治風刺のソロパフォーマンスが特徴のPaul Zaloom、人形芸術家⑤Theodora Skipitares、2015年MacArthur賞を受賞し、近年はキャンプ的側面を強調する作品を発表している⑥Basil Twist等の活動と、とくにその理念に注目した。ブルーアーとツイストについては実際に短時間のインタヴューを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1960年代以降の前衛演劇における人形劇と身体およびパフォーマーとの関係等、実践状況を含め文献により検証し、政治理念、身体の政治性等の観点から、①いくつかの傾向を確認することができた。②ニューヨーク市内の小劇場における人形およびオブジェを使用した上演の現況を調査した。以上により、米国オルタナティヴ演劇における身体および人形をめぐる実践の政治性、芸術性を考察する観点を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は主に「高等教育における人形芸術家の養成とネットワーク化」のテーマに沿い、合衆国内における人形劇を制度の観点から検証する。その際、米国の人形劇関連の団体および人形劇制作・人形師養成の制度についての基礎調査を進める。ユネスコの外郭団体UNIMA米国支部・Center for Puppetry Arts(ともにアトランタ)Puppeteers of America(ミネアポリス)、Jim Henson Foundation(ニューヨーク)、University of Connecticut(コネティカット州)等のうち、可能な限り訪問調査を行う。 一方で、全米に2500あるといわれる、大学の演劇学科を中心とした、高等教育の場での演劇実践教育を検証する。さらにリージョナルシアターと呼ばれる非営利の地方劇場の中で展開し制度化していった演劇についても芸術文化政策の視点から検証する。 本研究では、テレビや映画等の映像表象は除外することとするが、上記ジム・ヘンソン財団とセサミストリートの人形劇の技術がどのように継承され、その技術をもつ人形師やアーティストが舞台芸術分野に向かうルート、商業化に向かうルートを検証する意味でも、ヘンソンの業績とその影響の検証には力を入れる予定である。また、調査結果および考察をまとめ、紀要等に投稿するための論文執筆を開始する。
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Causes of Carryover |
研究出張として渡米するために計上した予算が、本務スケジュールの関係で出張期間が予定よりも短期となり、低額の支出で決算したため
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