2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02484
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
井川 ちとせ 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20401672)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 英文学 / 徴候的読み / 表層的読み / 読書会 / 解釈共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般読者にとっての読むことの意味を実証的に研究する目的で、6月と11月に渡英し、読書会と文学フェスティバルの参与観察、個人への聞き取り調査のほか、図書館司書への聞き取り調査や、図書館が閉鎖されたある村の図書貸出ボランティア活動の参与観察もおこなった。個人の読書実践については計22名の聞き取りをおこなうと同時に、うち複数の協力者とはメールや手紙でのディスカッションを続け、平成29年度に継続する調査の足がかりも得られた。また年間を通じて、一般読者向けの書評誌やラジオ番組の分析も進めた。 平成28年6月の第13回アーノルド・ベネット協会年次大会(於 North Staffordshire Conference Centre)では、“'And He Wanted My Advice': Arnold Bennett and T. S. Eliot”と題して、ハイブラウな文学作品をハイブラウな読者が受容し、ミドルブラウ作品をミドルブラウ読者が受容するといった、文学生産と流通、受容の二項対立的なカテゴリー分けの妥当性を検証した。 また、拙論「抑圧と解放?-ヴィクトリア朝小説に見る生命、財産、友情、結婚」(井川ちとせ・中山徹編著『個人的なことは政治的なこと-ジェンダーとアイデンティティの力学』(彩流社、平成29年3月、pp. 159-181)において、英文学研究において広く実践されてきた「徴候的読み」あるいは「懐疑的解釈」の問題点と「表層的読み」の可能性について検討をおこなった。拙論に加え「はじめに」(pp. 3-11)においても、編者として、学術研究が、反知性主義に陥ることなく、社会的役割を果たすための提言をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
教育活動および学務との関係で、現地調査をおこなえる期間は限られ、聞き取り調査のスケジュール調整は容易でなかったものの、6月の予備調査で多くの方々の理解が得られ、11月に聞き取り調査を集中しておこなうことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、年間を通じて各種書評誌やラジオ番組を購読・視聴し、分析をおこなうかたわら、渡英して読書会の参与観察や個人への聞き取りをおこなうほか、リヴァプールを拠点とするThe Reader Organisationを訪問し、プログラムの開発責任者Sophie Clarke氏および共同推進者の、リバプール大学教授Josie Billington博士への聞き取りを予定している。また、レスター大学で創作(creative writing)の指導をしているJonathan Taylor博士への聞き取りを予定している。H29年度中の研究成果を論考にまとめ、中央大学人文学研究所研究叢書より編著のかたちで発表する。
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Causes of Carryover |
H28年度は、勤務校の学務と、聞き取り調査対象者のスケジュールのすり合わせが容易でなく、2度の渡英の際は、それぞれ正味9日ずつの調査期間となり、支出額が予定を下回った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度の調査で得られた人脈を頼りに、H29年度は夏季に英国でやや長めの調査をおこなう見込みのため、次年度使用額はおもに旅費に充てたい。
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