2016 Fiscal Year Research-status Report
日系アメリカ文学を支えたアメリカの文学者たち―東西文化の混交と日本観の形成
Project/Area Number |
16K02485
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
水野 真理子 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 准教授 (40750922)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 日系アメリカ文学 / 日本観 / 東西異文化の接触 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀末から20世紀半ばにおける「日系アメリカ文学」の作品を生み出した作家たちが、アメリカの文学関係者たちにどう支えられ評価されたのかを明らかにすることにより、日米、および東西異文化の接触と交流の研究に、日系アメリカ文学分野からの新たな史実を加えようとするものである。 2016年度は、アメリカにおける日本人および日系作家と彼らを支えた文学者たち、そしてその日本観を明らかにするために、まずは、19世紀半ば頃のアメリカにおける日本観についての概要を捉えることとした。日本観の形成については、江戸時代末から日本に訪れた数々の学者、文学者、知識人、軍人、外交官、宣教師、ジャーナリストらが重要な役割を担っている。彼らが見聞し体験した、近代日本の姿が描写され、欧米諸国で出版された。 特にアメリカの日本観を形成する上で、大きな影響力を持った作家の一人が、ラフカディオ・ハーンであった。したがって、アメリカでの日本観を考察する糸口として、ハーンが『日本―一つの解明』に著わした日本像の特徴と、ハーンの日本観がアメリカにおいてどのように捉えられたのかについて考察した。その成果を、マイグレーション研究会の共同研究(「日本観」)で発表するべく、論文の完成を目指している(5月半ばまでに完成予定)。先行研究においては、ハーンの日本観を明らかにすることが主眼であった。そこで筆者は、新たな切り口として、ハーンの日本観の受容の側面に焦点を当てた。 また、ハーンの日本観の受容をめぐっては、ヨーロッパにおけるジャポニズムや、そこから波及したジャポニズム小説のアメリカにおける流行という文学史上の特徴も関連している。ハーンをめぐる日本観という具体的な事例を、ジャポニズムという大きな流れとの関係性において明らかにすることも、2016年度の研究における課題であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
日系作家たちと彼らをめぐる日本観を探る際に、その下地となる19世紀末以前の日本観について明らかにしておく必要があり、そのためには、日本にやってきたお雇い外国人や文学者たち、例えばウィリアム・グリフィス、パーシヴァル・ローウェル、そしてハーンをめぐる日本観について明らかにする必要があった。特に重要作家であるハーンを取り上げたが、彼の著作や先行研究が膨大に存在するため、それらの把握、整理、読解にかなりの時間がかかってしまった。また、ハーンの日本観の受容の側面について考察する際にも、ハーンの日本観という大きなテーマに加えて、その著作がどう読まれたのかを明らかにするための文献が相当の数にのぼり、それらの読解に予想以上の時間を要してしまった。したがって、ハーンの遺作、集大成であった『日本ー一つの解明』に絞り、その著作における特徴と、それについての書評をめぐって、受容の問題について考察を加えることとし、現在その成果の完成に向けて研究を進めている。 また本研究課題の主要テーマである、ヨネ・ノグチ、エツ・スギモトの作品受容の問題を考察する際に、フランス、イギリスなどヨーロッパにおけるジャポニズム運動、そしてアメリカにおけるジャポニズム小説の流行という社会的、文学的背景を考察し概観しておく必要があった。さらに日本が日清戦争、日露戦争と二つの大戦に勝利し、欧米諸国で黄禍論が沸き上がっていった社会的文脈についても整理しておく必要があり、それらの把握にも、かなりの時間を要している。その結果、当初の計画より遅れてしまうこととなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
アメリカにおける日本観を社会的背景として概観した後は、当初の計画に沿って、具体的な作品、第一次資料の読解と史実、伝記的事項の調査に時間を費やす予定である。 本年度の計画としては、①まずは5月末までに、前述したハーンの日本観の受容についての論文を完成させる。それと並行しながら、②エツ・スギモトの作品読解と受容の研究を進める。具体的には、まずスギモトの1898~1902年、シンシナティ時代の前半に焦点を当て、『シンシナティ・インクワイアラー』『ブルックリン・デイリー・イーグル』に寄稿した随筆、紀行文を読解し、内容を整理する。また執筆の背景、協力者フローレンス・ウィルソンとの関係、シンシナティにおける日本人の状況などを明らかにする。それを小論としてまとめ、6月末締め切りの『AALAジャーナル』に投稿する。③ヨネ・ノグチの作品読解と受容の研究を進める。具体的には、ノグチを育んだ文学的土壌(ミラーとの関連、『リトル・ポエトリー・マガジン』とボヘミアニズム、ジャポニズム小説)について整理、考察する。その際、ハーンをめぐる日本観、スギモトをめぐる日本観との比較を試みる。それを小論としてまとめ、10月初め締め切りの『富山大学杉谷キャンパス紀要』に投稿する。④エツ・スギモトの後半生における作品を読解。また『武士の娘』の書評内容を分析し、その著作のどういった点が評価されたのか、評者たちは作品からどのような日本像を抱いたかを考察する。⑤①、②、③、④について取りこぼしのあった点など吟味し、ハーン、スギモト、ノグチ、を主軸としたアメリカにおける日本観の流れについて通観する。そして今後の課題や方向性を再考する。
|
Causes of Carryover |
日本観についての概要把握のための書籍購入、二次文献の収集・読解・整理を優先したため、当初の研究計画で予定していた研究テーマについて、国内外の外部機関への一次資料調査や、必要な書籍・文献などの購入の一部を、次年度以降にまわすことにした。そのため、未使用の額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画していたテーマについて、本年度は精力的に進める予定である。書籍、文献を網羅的に収集、また研究遂行のために必要な電子機器(パソコン、プリンター、スキャナー)も充実させ、研究環境を整える予定である。学会、研究会への出席、発表を昨年度よりも多く行うことを計画している。
|