2017 Fiscal Year Research-status Report
日系アメリカ文学を支えたアメリカの文学者たち―東西文化の混交と日本観の形成
Project/Area Number |
16K02485
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
水野 真理子 富山大学, 教養教育院, 准教授 (40750922)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日系アメリカ文学 / 日本観 / 日本人女性像 / ラフカディオ・ハーン / エツ・スギモト / ヨネ・ノグチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀末から20世紀半ばにおける「日系アメリカ文学」の作品を生み出した作家たちが、アメリカの文学関係者たちにどう支えられ評価されたのかを明らかにすることにより、日米、および東西異文化の接触と交流の研究に、日系アメリカ文学分野からの新たな史実を加えようとするものである。 2017(平成29)年度は、前年度に考察した課題である、ラフカディオ・ハーンを通して、アメリカの文学関係者たちに受容されたと考えられる日本像について、さらに資料を読解・分析し、その特徴や傾向を明らかにした。その成果を、水野真理子「ラフカディオ・ハーンはアメリカでどう読まれたか」河原典史・木下昭編『移民が紡ぐ日本ー交錯する文化のはざまで』(2018年)として発表した。 また、エツ・スギモトの描いた日本像について、まずはこれまで注目されてこなかった彼女の初期作品を読解し、内容を要約、そこに現れる日本像や日本女性像について、その特徴をまとめた。それらは日本の文化や習俗について、特に、衣服や家庭内行事、また子供たちの姿などを、女性的な視点から描くものだった。そこには、ハーンが描いた日本像との共通点も見られた。その成果は、水野真理子「エツ・スギモトの初期作品ー日本文化の表象と作品の背景」『富山大学杉谷キャンパス一般教育研究紀要』第45号、2017年として発表した。 加えて、野口米次郎(ヨネ・ノグチ)の描いた日本像について、小説『日本少女の米国日記』(1902)を読解し、そこに現れる、特に日本女性像について分析を進めている(7月開催のヨネ・ノグチ学会での発表を予定)。 「正確だ」と評されたハーンの日本像がアメリカ知識人層に広まっていった一方、スギモトという女性作家の視点による日本(女性)像、またジャポニズム小説との関連も色濃い、ノグチが描いた日本(女性)像のありようが少しずつ見えてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
19世紀末の日本観を考察する際に、ラフカディオ・ハーンの日本観について明らかにすることが必要と思われ、まず彼の作品およびそれらを通して欧米の文学界で形成されたと考えられる日本観について、彼の作品の書評を中心に考察した。ハーンの作品の深遠さや書評記事の分量の多さによって、その作業に予想以上の時間がかかってしまった。またハーン作品を通して得られた日本観についての小論を、共著として出版するために、校正を重ねたことにもかなりの時間が費やされた。ただ、この作業は、ノグチやスギモトをめぐる日本観を考察する上での、土台ともなるもので、重要な作業であった。当初の計画では、2017年度までには、エツ・スギモトとヨネ・ノグチら作家たちを支えた文学関係者との交友の状況、またその文学関係者たちが、作家らを通して抱いた日本観を考察することも主軸に掲げていた。しかし、作家たちの作品の読解、また書評資料の収集と読解・分析にも相当の時間が費やされ、文学関係者との関係まで手が伸ばせなかった。しかしながら、当初の計画の通り、スギモトとノグチの作品の読解、また彼らの経歴、執筆の背景などに迫ることはできた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画で扱う予定の5名の日系作家(エツ・スギモト、ヨネ・ノグチ、加川文一、トシオ・モリ、ヒサエ・ヤマモト)のうち、本年度中盤までは、引き続き、スギモト、ノグチの研究に集中的に取り組み、本年度の終盤から加川、モリ、ヤマモトの分析へと移っていきたい。 ①ノグチに関しては、7月までを目途に『日本少女の米国日記』に表れる日本像、日本人女性像、また書評記事を手掛かりに評者たちがその作品を通して抱いた日本像、日本人女性像を明らかにする。またノグチの書簡資料を手掛かりに、ノグチの友人たちがその作品をめぐってどのような日本イメージを抱いていたかを考察する。その際、ノグチに影響を与えたオノト・ワタンナのジャポニズム小説、またメアリ・マックレインの日記体小説についても視野に入れる。(6月末締め切りの『AALAジャーナル』に投稿、7月開催のノグチ学会で発表する)②スギモトに関しては、9月までを目途に、1910年代の作品を読解し、その内容を要約する。(9月末締め切りの『移民研究年報』に投稿する。)さらに12月までには、彼女が執筆活動を始めたシンシナティにおける日本ブームの状況やスギモトや親友のフローレンスらが関わっていた地域的な文学コミュニティ、および女性たちの文学的な関心について、新聞記事、二次資料、書簡資料より明らかにする。12月末を目途に、スギモトの『武士の娘』の書評内容を分析し、そこに表れる日本像を明らかにする。③3月末を目途に、加川文一、ヒサエ・ヤマモトと交友のあったイーヴァー・ウィンタースについて調査し、どのように彼(女)らを支えたか、書簡資料を中心にまとめる。(4月末締め切りの『関西アメリカ文学』に投稿する。)
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