2018 Fiscal Year Research-status Report
日系アメリカ文学を支えたアメリカの文学者たち―東西文化の混交と日本観の形成
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16K02485
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
水野 真理子 富山大学, 教養教育院(杉谷), 准教授 (40750922)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日系アメリカ文学 / 日本観 / 日本人女性像 / ラフカディオ・ハーン / ヨネ・ノグチ / エツ・スギモト |
Outline of Annual Research Achievements |
2018(平成30)年度は、①まず前年度に分析したラフカディオ・ハーンを中心とする19世紀末のアメリカにおける日本イメージを踏まえて、ハーンの著作と同様にアメリカで話題となったヨネ・ノグチの『日本少女の米国日記』(1904)に焦点を当てた。ノグチがその作品で描いた日本人女性像や日本人男性への言及、またその女性像がアメリカの読者にどのように受容されたかを明らかにした。その日本人女性像は、日本の文学に描かれる男性に従順な女性像ではなく、むしろ職業的自立を求め、男女同権を望む快活な女性像であった。その姿は、ノグチの文筆を支えたレオニー・ギルモアら自立を目指すアメリカの女性作家たちの姿と重なり、彼女たちのノグチに対する強い影響を再確認した。またノグチと同時期にアメリカで活躍した女性作家オノト・ワタンナが、日本女性を主人公に据えた作品『日本のヌメさん』などに描いた日本女性像に対して、ノグチは批判的眼差しを持っていたことも作品、書簡資料から検討した。 ②次にノグチの作品以後、話題となるエツ・スギモトの作品のうち、1910年代の初期作品に焦点を絞った。それらは『シンシナティ・インクワイアラー』に寄稿した五つの日本の昔話である。そこに描かれる自然観とハーンが描いた自然観の類似性と相違点を探り、またスギモトを支えた『インクワイアラー』の記者フランク・モーリーがスギモトとハーンを同様に文化的架け橋の役割を担う存在として称讃していたことを確認した。さらにスギモトの描いた武士の娘としての経験は、ルース・ベネディクトの『菊と刀』に受け継がれていることを、テキスト読解を通して再確認した。 本研究での意義は、各作家、作品ごとに単独的に捉えられてきた日本表象を、ノグチとワタンナ、ハーンとスギモト、モーリー、ベネディクトといった作家たちの間の相互関係、そして作品分析より実証的に明らかにできたことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヨネ・ノグチの『日本少女の米国日記』およびその同時代の女性作家たちの作品を検討し、その成果はヨネ・ノグチ学会(2018年7月7日)にて「『日本少女の米国日記』に描かれる日本人女性像をめぐって」と題して口頭発表し、有意義な議論、示唆を得た。またハーン、スギモトにおける日本表象の比較というテーマからは、その両者が抱く日本の特に自然についてのイメージに共通点があるとわかり、ハーンとスギモト両者が、日米の文化交流を促す存在として評価されていた点、さらにスギモトの作品にベネディクトが影響を受けていた点など、当初計画していたときよりも更なる関連性などを発見することができた。これについては、2018年12月15日「富山大学ヘルン研究会国際シンポジウム』で口頭発表し、様々な有益な示唆を得た。また『ヘルン研究』(2019年5月末刊行予定)に論文「ハーンとエツ・スギモト―日本表象の系譜を探って」としてまとめた。また論文にまとめるところまでは到達しなかったが、ノグチと同時代に日本で活躍していた女性作家たちが描いた日本女性のイメージ、また男性作家で永井荷風、有島武郎、翁久允などアメリカに滞在していた作家の作品に描かれる日本人女性像なども検討した。加えて、アメリカで19世紀半ばころから活発になっていく女性の社会進出やジャーナリズムへの進出という動きと、大正時代から昭和初期にかけて台頭する新しい女といわれる日本女性作家たちの動きとの間に、ノグチの「新しい女」を先取りしたような日本人女性像があるという点が明らかになり、欧米におけるフェミニズム運動から日本における運動へのより広いテーマとの関連性も浮かびあがってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる本年度は、これまで明らかにしてきた点をさらに深め、また取りこぼしてきた点に焦点を当て、次のような計画で研究を進める予定である。①ノグチの『日本少女の米国日記』続編である『日本少女の小間使い日記』を精読し、そこに表れる日本人女性像、作品の欧米における評価を検討する。またその日本女性像がどのように作られたか、ノグチを支えたレオニー・ギルモアらとの交友関係、書簡などから考察する。その成果を『AALAジャーナル』(6月末)に論文として投稿する。②日系一世の詩人加川文一の書簡・詩の創作ノートなど資料調査(ロサンゼルスにて)、ハーン、エツ・スギモトに関する資料調査(シンシナティ)を行う(8月末) ③日系作家(加川文一、トシオ・モリ、ヒサエ・ヤマモト)たちと彼らを支援した詩人イヴォ・ウィンタース、サロイヤンについて彼らの関係性を、すでに調査済の書簡資料などを再読し、まとめる。また、ウィンタースが加川の詩を評価した理由は何かについて、ウィンタースの詩論や当時のモダニズム、イマジズムなどの思潮から分析する。またウィンタースとヒサエ・ヤマモトとの書簡を再読し、ヤマモトとの関係もまとめる。また、サロイヤンがトシオ・モリを励ました背景に、サロイヤンのどのような文学に対する信条などがあったのかを探る。サロイヤンがモリたち、日系二世らマイノリティの文学の勃興を意図した背景に何があったのかも考察する。それらを小論としてまとめ(9月から11月末)、その成果を『富山大学人文学部紀要』に投稿する(1月)。
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Causes of Carryover |
研究の進展状況などから、アメリカでの資料調査を2018年度実施から2019年度での実施へと変更したために、最終年度で使用する予定の渡航費、滞在費などの金額を、残したためである。この次年度使用額は、ロサンゼルスの沖縄県人会図書室に所在する加川文一関連の資料、他日系文学関係者へのインタビュー、そしてシンシナティ図書館等でのハーン、エツ・スギモト関連の資料調査実施のために使用する。渡航は8月下旬を予定している。
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