2017 Fiscal Year Research-status Report
アンチ・エレジーが果たす役割:アメリカの詩人パーマーの作品と現代社会
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16K02487
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
山内 功一郎 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (20313918)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 詩 / エレジー / アメリカ文学 / 文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究実績は、以下のテーマについてまとめられた――「アメリカの詩人マイケル・パーマーの作品は、アンチ・エレジー的な性格をどのように発現させているか」。二年目にあたる本年度は、カリフォルニアに渡り、パーマー本人や彼のアンチ・エレジー的実践を高く評価する研究者へのインタビューを行い、さらにカリフォルニア大学附属図書館でアンチ・エレジーに関する体系的な文献調査を行った。帰国後にリサーチ結果を精査し、前年度に行ったアメリカでのリサーチ結果と照らし合わせながら研究成果をまとめることができた。 まず研究書の成果としては、2017年12月に単著の研究書『沈黙と沈黙のあいだ―ジェス、パーマーとペトリンの世界へ』(思潮社)を刊行できた件を挙げることができる。全231頁のこの研究書は、20年余りにおよぶ現地リサーチの結果を踏まえ、現代の詩や絵画作品がいかに社会・思想・哲学と批評的な関係を結んでいるかという点について実証的に検証した成果をまとめたものである。パーマーの詩についても大きく取り上げた当該研究書は、本研究のテーマをめぐる考察とも密接な関係性を示している。 論文の主たる成果としては、年度末の2018年3月に論文「到来する言葉たち―マイケル・パーマーによる「アンチ・エレジー」の実践」を『現代詩手帖』(思潮社)誌上に発表した件が挙げられる。この論文は、パーマーの最新作においていかに旧来的なエレジーの構造が批判的に検証され、さらにアンチ・エレジー的な批評性が提示されているかといった点を論じたものである。近年の英文学研究の動向にも触れつつ、欧州難民危機と詩の関係性について分析したこの論文は、本研究の成果を直接的に示している。またそういった成果を現代詩の専門誌『現代詩手帖』誌上で発表できたことは、研究成果を一般に広く公開する点において極めて有効だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で既に述べたように、今年度は単著の研究書『沈黙と沈黙のあいだ―ジェス、パーマーとペトリンの世界へ』(思潮社)を発表し、さらに本研究計画の成果を示す主要論文「到来する言葉たち」を『現代詩手帖』誌上で発表できた。 これらの成果が実現した理由としては、マイケル・パーマーを始めとする協力者が本研究の意義を認め、惜しみない助力を与えてくれた点が挙げられる。とりわけ『沈黙と沈黙のあいだ』は毎日新聞や『現代詩手帖』の書評でも取り上げられたので、アメリカ文学研究者のみならず、現代詩の動向に関心を持つ一般読者の方々の目にも研究成果が触れることとなった。また本研究の主要テーマ「アンチエレジー」について直接検証した主要論文も、現代詩の月刊誌に掲載されることにより、理想的な成果公開の形をとることができた。 以上の点を鑑みて、今年度は当初の計画以上の進展が実現した年度であったと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究の最終年度にあたるので、引き続き仕上げの準備を行う。そのためにサンフランシスコでの現地リサーチを行い、さらにパーマーを始めとする主要詩人やアーティストたちへのインタビューを行う。現地の図書館等におけるリサーチも継続して行う予定である。 また次年度においては講演会を実施し、一般に広く研究成果を発信する機会を作ることも検討したい。講演題目については可能な限り一般聴衆に配慮し、アクセスしやすいものを設定する予定である。
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