2017 Fiscal Year Research-status Report
罪悪感の文学--マーク・トウェイン小説作品の自伝的基盤を探る
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16K02490
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
里内 克己 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (10215874)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トウェイン / 罪悪感 / 良心 / 伝記的事実 / 自伝 / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年5月に初めての研究書の単著『多文化アメリカの萌芽――19~20世紀転換期文学における人種・性・階級』(彩流社)を出版することができた。この研究書は10年前以上前から構想され、少しずつ執筆されたものであり、またテーマ自体は本課題からは外れている。しかしトウェインを扱った最終章「アメリカの始まりに目を凝らして」の執筆にあたっては、平成28年度の成果である学術論文「改訂される事実とフィクション」を踏まえ、更に『トム・ソーヤーの冒険』での登場人物インジャン・ジョーの役割や彼のセリフがもつ意味をめぐる新しい解釈を加えて、論の完成度を高めることができた。したがってこの著作の最終章に関しては、本研究課題の成果の一部と見なすことができる(本研究書の「あとがき」にその旨を付記)。 研究発表に関しては、10月に日本アメリカ文学会関西支部におけるシンポジウム「アメリカ文学の新学期――21世紀アメリカ小説教授法」に講師として登壇し、『ハックルベリー・フィンの冒険』や『アーサー王宮廷のコネティカット・ヤンキー』などのトウェイン作品を、現代の若手作家の小説と並べて論じた。脱南部化した南部人としてのトウェインの経歴をめぐる考察を含み、その点で本研究課題との連続性を持つ発表となった。また、連載版『自伝』の訳出作業は順調に進み、作品全体の8割程度の訳稿が完成している。平成29年度は、代表作『ハックルベリー・フィン』を関連論文・文献と共に読み直し、分析する作業にかなりの時間をかけ、平成30年度以降の成果をつくる準備を行なったことも付記しておく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先にも述べたように、昨年度の成果である研究論文を踏まえて、トウェイン晩年の未発表作『それはどっちだったか』「インディアンタウン」の二作を扱った研究書の最終章を完成させることができた。更に、トウェインが生前に雑誌『ノース・アメリカン・レヴュー』 に発表した連載版『自伝』の翻訳作業は、予定していた全体の三分の二を遥かに越えて進み、あと40~50頁程度を残すのみとなった。それが平成29年度における大きな進展であったと言える。その一方で、予定していなかったシンポジウムに登壇することになり、複数の学会誌の書評執筆を引き受けたことなどによって、当初計画していたトウェイン盛期の小説作品を扱った論考を活字の形で発表することが、平成29年度はできなかった。その代り、作品自体の分析作業自体は『トム・ソーヤーの冒険』『ハックルベリー・フィンの冒険』に重点を置いてかなり進めてきているので、平成30~31年度にかけて複数の成果を発表できる見通しがある。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度(平成30年度)は、トウェインをめぐる伝記的事実を視野に収めた『トム・ソーヤーの冒険』論を、査読付きの学会誌に発表することを目指したい。また、自伝研究という方向性を発展させていく意味でも、トウェイン以外のアメリカ作家(19世紀ないしは20世紀)の書いた自伝的な作品を素材として取り上げ論じる可能性もある。連載版『自伝』の翻訳作業は、順調に進めば今年度の秋に第一稿が完成するので、そこからは訳稿の点検・出版社との交渉・翻訳本に付する解説文の執筆を行なう予定である。今年度の秋には、UCバークレーの研究機関「マーク・トウェイン・ペーパーズ」から研究者のベンジャミン・グリフィン氏が来日され、日本マーク・トウェイン協会大会で1860年代のトウェインに関する講演を行われる。研究上の交流を深める良い機会であり、それに合わせて今年度はトウェイン最初期に書かれたハワイからの通信書簡(1866年)や、最初の長編小説『金ぴか時代』(合作、1873年)を重点的に読みつつ、関連資料の検討と調査を行ないたい。また来年度(平成31年度)の9月に、日本ウィリアム・フォークナー協会のシンポジウム「ミシシッピ川とアメリカ文学」に登壇することが決まったので、本研究課題もそのシンポジウムに合わせた成果が出せるよう準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
平成29年度の最初の3か月ばかりは、研究書の出版準備に追われて本研究課題に本腰で取り組むことがほとんどできなかった。またそれ以降も、シンポジウムや平成30年度に発表予定の書評2本の準備のため、指定された本を丹念に読む作業に多大な時間を費やした。読み直し・分析・翻訳といった作業自体は進んだが、資料収集や他研究者たちとの交流の機会がとれなかったため、当初計画していた予算を余らせる形で2年目の研究を終えた。平成30年度には、東京や金沢などでの学会への参加が決まっており、国内外の研究者たちとの交流・情報交換の機会を多く作ることになる。研究の進展によっては海外で資料調査を行なう可能性もある。研究の機動性を高めるために軽量のノートパソコンやタブレット類、そしてトウェイン研究の必須図書(アイオワ=カリフォルニア版など)を多く購入する予定である。
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Research Products
(2 results)