2018 Fiscal Year Research-status Report
罪悪感の文学--マーク・トウェイン小説作品の自伝的基盤を探る
Project/Area Number |
16K02490
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
里内 克己 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (10215874)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トウェイン / 小説の自伝性 / 罪悪感 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年5月に出版した単著『多文化アメリカの萌芽――19~20世紀転換期文学における人種・性・階級』(彩流社)に対して、日本アメリカ文学会第3回学会賞が与えられた(平成30年10月)。12章に分かれたこの研究書のなかで、とりわけマーク・トウェインを扱った最終章「アメリカの始まりに目を凝らして」は本研究課題と関連するが、学会誌『アメリカ文学研究』第55号(平成31年3月発行)の折島正司氏による書評において多くの紙数を費やして紹介されるなど、とりわけて高い評価が与えられている。平成30年度は、『英文学研究』『英文学研究 支部統合号』に寄稿した計2本の学術書書評を執筆する作業に加え、勤務校の耐震改修工事に伴うオフィスの移転作業を円滑に執行するための責務を担うなど、膨大な時間を要する校務が期せずして重なり、残念ながら論文に関しても研究発表に関しても、思うような成果を上げることができなかった。しかしながら『〈連載版〉マーク・トウェイン自伝』の訳出作業は非常に順調に進み、平成30年の9月に最初の訳稿が完成し、その後の点検を経た第2稿、そして索引項目が平成31年の4月に完成したので、予定通りに最終年度で出版できる見通しがつけられた。また、平成30年度はトウェイン初期の小説作品の分析作業も順調に進め、令和元年9月に登壇するフォークナー協会シンポジウムで報告する原稿の8割程度を完成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先にも述べたように、トウェインが最晩年に雑誌『ノース・アメリカン・レヴュー』に発表した連載版『自伝』の翻訳作業は、非常に順調に進展している。平成30年の9月に最初の訳稿が完成し、その後すぐ文章を再点検する作業を始め、訳文を複数の既訳と突き合わせるなどの作業を経て、訳文を確定させた第2稿を平成31年の4月に完成させた。併せて索引項目や、各章に添える目次も作成した。自伝の翻訳のために必要な原稿は、巻末に付ける解説文を残すのみとなったので、予定通りに最終年度で出版できる見通しをつけることができたと言える。それが平成30年度における最も大きな進展であった。その一方で、複数の学会誌の書評執筆を引き受けたことに加え、予期しない膨大な校務を抱えてしまったことが原因で、当初計画していた研究成果の発表を行なうことが平成30年度にはできなかった。ただし、そのようななかでも作品自体の分析作業自体は着々と進め、トウェインが旅行記作家から小説家へと踏み出した1870年代に書かれた一連の作品群に、関心の焦点が定まりつつある。特に、チャールズ・ダッドリー・ウォーナーと共作した最初の長編小説『金ぴか時代』(1873年)は、トウェインの家族をめぐる伝記的事実を基盤にして書かれた部分が多いのに拘わらず、共作であるという理由でこれまで等閑視されてきた。平成30年度はこの作品について念入りに再読・分析する作業を行ない、その重要性を明らかにすることができた。したがって、少なくとも『金ぴか時代』を中心とした論考に関しては、最終年度において口頭発表および活字での発表を確実に行なう準備が整ったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の9月に日本ウィリアム・フォークナー協会のシンポジウム「ミシシッピ川とアメリカ文学」に講師として登壇することが既に決まっており、その準備を進めている。最初の長編小説『金ぴか時代』(合作、1873年)をその後に書かれた『トム・ソーヤーの冒険』『ミシシッピ川の生活』『自伝』などの作品群と絡めながら論じる論考をそのシンポジウムで報告できるよう取り組むのが、直近の課題である。この論考については口頭発表だけではなく、できる限り今年度のうちに活字化し、査読付きの学術誌に発表できるよう全力を挙げる。また、この『金ぴか時代』を主軸とする研究の延長線上で、直後に書かれた小説作品『トム・ソーヤーの冒険』に関する論考も完成させるように努める。今年度12月に日本英文学会関西支部大会で慫慂研究発表を行なうので、そこを発表の場として現在検討中である。ただし自伝研究という方向性を今後も発展させていく意味でも、12月の学会発表では、トウェイン以外のアメリカ作家(19世紀ないしは20世紀)の書いた自伝的な作品を素材として取り上げ論じる可能性もなお残している。連載版『自伝』の翻訳作業は既に大半が終了しているが、本年度の夏には解説文を完成させ、秋以降に出版社と交渉しながら編集作業に入り、年度末での出版へと進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度は既に述べたように、学会誌に発表した書評2本や、やむなく抱え込んだ膨大な校務のために、本研究課題に本腰で取り組むことがほとんどできなかった。読み直し・分析・翻訳といった作業自体は進んだが、成果発表については次年度まわしになった。そして資料収集や情報収集のために国内外の図書館や研究機関に赴く時間が取れなかったなどの事情もあって、当初計画していた予算を余らせる形で3年目の研究を終えた。最終年度に当たる令和元年度には、広島・東京・東北などでの学会への参加が決まっており、翻訳出版の打ち合わせのために東京に赴く機会も必要となるので交通費・宿泊費等の支出が必要となる。研究の進展によっては、カリフォルニア大学バークレー校やニューヨーク州エルマイラ大学のような海外のトウェイン研究の拠点に赴いて資料調査を行なう可能性もある。トウェイン研究の必須図書(アイオワ=カリフォルニア版など)を多く購入する必要性も、これまでの年度と変わることがない。なお翻訳本出版のための費用に関しては、当初の計画通り、計上済みの最終年度予算の範囲内で執行を行なう。
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