2018 Fiscal Year Annual Research Report
American Writers and Their Conflicts with Communities
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16K02491
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 久男 広島大学, 文学研究科, 名誉教授 (30039135)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 共同体 / リージョナリズム / ウィリアム・フォークナー / ユージン・オニール / レスリー・マーモン・シルコウ / トシオ・モリ / 先住民作家 / 日系アメリカ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
市民の平等や連帯を重視する民主主義と、自由を重んずる個人主義という、対立的なアメリカニズムの理念を基盤とするアメリカ社会において、「アメリカ作家と共同体との確執」がどのように展開したのかという研究課題を、平成28年度と29年度の2年間で、アメリカの各地域を代表する作家を中心に追究した。具体的には、中西部の田舎町の偏狭性と排他性を批判したシンクレア・ルイス、ウィラ・キャザー、シャーウッド・アンダソンたち、人種差別や後進性を南部の病根と捉えたウィリアム・フォークナー、トマス・ウルフ、ウィルバー・J・キャッシュ等、ピューリタニズムの狭隘性に対抗的な汎神論的宇宙観を提示したジョン・スタインベックやアリス・ウォーカーなどを対象として、「アメリカ作家と共同体との確執」という、これまで十分可視化されていなかったアメリカ文学の大きな特徴を検証できた。 研究最終年度の平成30年前半では、先住民作家のレスリー・マーモン・シルコウやN・スコット・ママデイを中心に、彼らの部族的な共同体が示す伝統への敬愛や、キリスト教文化の単線的な時間概念に対抗して、円環的な時間観を基に汎神論的なヴィジョンを保持していることを究明した。さらに、日系アメリカ文学の中から、そのパイオニアと見なされているトシオ・モリやジョン・オカダを中心に、彼らの共同体を中核にした結束や伝統的な価値観への愛着の様相を考究した。これらエスニック作家たちは、アメリカ文学の主流から外れている分だけ、共同体を防波堤として団結する姿勢が、作品にも色濃く表れていることを検証できた。平成30年度後半では、アメリカの成功の夢という神話が誘発する物質主義的な価値観に呪縛されている人々の思考様式を、ユージン・オニールやアーサー・ミラーなどの代表的な劇作家が、国民病として問題視していることを、共同体やアメリカ社会と家族や人間関係の描写を通して跡づけた。
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