2016 Fiscal Year Research-status Report
十八世紀イギリス新聞投稿詩におけるライター・読者共同作業
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16K02493
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
田久保 浩 徳島大学, 大学院総合科学研究部, 教授 (20367296)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イギリス文学 / ジャーナリズム / メディア / 十八世紀 / イギリス詩 / イギリスロマン派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は1787年から2年足らずの問、ロンドンの日刊紙The World: Fashionable Advertiser上で、展開されたデッラ・クルスカ派(Della Cruscans)による新聞投稿恋愛詩のブームについて、メディア現象としてその背景や影響を探るものである。 研究初年度である28年度は、主として、大英図書館のデータベースから日刊紙The Worldについて、対象とする2年間の紙を閲覧し、記録と分析を行った。その結果明らかになったことは、十八世紀後半の日刊紙の役割である。舞台情報や、政治短信、貿易関連情報や、商品広告、有名人消息やイベント報告等、さまざまな情報が限られた二つ折り4面の紙面に凝縮されている。女性劇作家ハナ・カウリーは、この中からデッラ・クルスカによる詩を見逃すことなく、すぐさまそれに応じて、アナ・マチルダのペンネームで返歌を送ったわけだが、この雑多な情報を集めた紙面を丹念に読んでいたことがわかる。『クオータリー・レビュー』誌の初代編集者ウィリアム・ギフォードが「バヴィアッド」にてデッラ・クルスカ派を激しく攻撃した事実からこの一派が相当な影響力を持ち、紙面においても目立った扱いがあったものと予想したが、詩が掲載されるのは4面の紙面の3面の一角に過ぎず、詩が掲載されない日もある。 以上の調査結果からわかるのは、十八世紀後半にあって、ロンドンの20紙ほどの日刊情報紙の果たすメディアとしての役割である。ロンドンの消費生活を支える市民にとって日刊紙は中心的な情報源であり、読者は競って、こうした日刊紙を手に入れて情報を共有することで公共圏を形成していた。この新聞の役割を補うのが、雑誌であり、新聞紙上で発表された詩を採録し、そして新聞、雑誌紙上で好評を博した作品はさらに単行本の形で出版され、それが版を重ねることでより大きな影響力をもつこととなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
The Worldら、デッラ・クルスカ派の投稿詩を掲載した各紙の紙面分析を行った。Burney Collection (データベース)を利用し、新聞紙面について次の調査、記録を行った。a)広告の種類、記事、その他の情報についての割合、b)投稿詩の前後ページの記事、c)投稿詩の発表日ごとの整理。それにより新聞投稿詩の同時代状況に浮かび上がるディスコースとしての性格について分析するための記録を採った。新聞や雑誌に掲載されたデッラ・クルスカ派と称されるロバート・メリ一、ハナ・カウリー、メアリー・ロビンソンら投稿者たちの詩歌の収集をおこなうと同時に、彼らについての文学的背景と後代への影響について、資料を取集して、研究を進めている。またThe Worldを出版したJohn Bell (1745-1831)、編集者Edward Topham (1751- 1820)についての史実も含め、十八世紀末のジャーナリズム、ないし出版史についての資料を収集し、調査を進めている。 以上、初年時に計画した研究活動はほぼ予定通り進行したが、データベースから収集したデータの分析はまだ途中であり、また取集したイギリスのメディア、出版史、および新聞投稿詩人や出版者たちについての研究書は、目下、研究の途中である。これらの資料を分析して、十八世紀末のイギリスのメディア状況と文学の関係について、これまでの成果を口頭発表、ないし論文として発表するため、現在作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
デッラ・クルスカの消息を知らせる短信などから、新聞紙面から、これら詩人について、ある程度の読者の関心はうかがえるが、一連の詩がより大きな影響を持ったのは、The Poetry of the Worldという詩集として単行本で発行されたことが大きかったと推定される。そこでその影響の全体像の把握するためには、さらに雑誌等の書評記事等を調査する必要があることがはっきりしてきた。そこで今年度は、昨年と同じ大英図書館に於いて、British Periodicals Databaseを用いて、デッラ・クルスカ派に関連する雑誌掲載詩や書評記事等を丹念に検証する計画である。また、ウィリアム・ギフォード(1756-1826)がデッラ・クルスカ派を攻撃する目的で書いた風刺詩The Baviad (1791)など、フランス革命後のイデオロギ一対立を背景にクルスカ派をめぐる言説を同時代の雑誌記事から調査する。同時に、ロバート・メリーらと同時代人であるロマン派第一世代のウィリアム・ワーズワス、S. T.コールリッジらのクルスカ派への反応や態度について、彼らの初期の作品、書簡、散文から検証する。さらに十八世紀末の出版文化および読者をめぐる状況についての書誌の調査、分析を行ったうえで、この時代、新聞、雑誌、単行本の果たすメディアとしての役割と文学との関係について、その輪郭を明らかにしたうえで、日本英文学会等での口頭発表、および論文としての発表(レポジトリとしての公開)を行い、その成果を社会に還元するよう努める。
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Causes of Carryover |
図書購入に際して、大学生協での購入価格が予定価格を下回ったため、
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度で予定している図書購入費に加えて使用する計画である。
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