2017 Fiscal Year Research-status Report
十八世紀イギリス新聞投稿詩におけるライター・読者共同作業
Project/Area Number |
16K02493
|
Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
田久保 浩 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (20367296)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | イギリス文学 / ジャーナリズム / メディア / 十八世紀 / イギリス詩 / イギリスロマン派 |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度より、主として大英図書館のデータベースから日刊紙The Worldについて、対象とする2年間を中心として紙面を閲覧し、記録と分析を行ってきた。同時に十八世紀後半のイギリスの新聞や出版文化について、背景となる状況を調べてきた。また、デッラ・クルスカ派と称されるロバート・メリ一、ハナ・カウリー、メアリー・ロビンソンらの詩人についての伝記的、文学批評的研究についても調査を行い、さらに、こうした十八世紀後半のメディア状況の背景となる「感受性」(Sensibility)という言葉で代表されるこの時代の思潮についての研究を行ってきた。 以上の成果の一端を平成29年度は、イギリス・ロマン派学会第43回全国大会での研究発表「デッラ・クルスカ詩の表現とイデオロギーおよびロマン派への影響」ないし、徳島大学発行『言語文化研究』25号掲載論文「デラクルスカ派の詩における感受性のイデオロギーと十八世紀メディア」という形で発表し、後者は徳島大学機関リポジトリにて公開されている。 上記二つの発表で論じたのは、感受性(Sensibility)の思潮の成立には出版メディアの確立が不可欠の要素であったとするJohn Brewer (2009)の指摘を踏まえて、新聞紙上のデラクルスカ詩ブームは、メディア上での読者同士の身分階層や性別を超えた共感の起こした顕著な例であり、現代のメディアと共通するメディア現象であるという点である。この事実は十九世紀初頭のロマン派の詩研究を見直す必要を迫るものである。なぜならこれまで個々の詩人ごとに研究されていたロマン派詩を十八世紀末からの出版メディア全体のコンテクストでとらえ直すことで新たな同時代の文学状況の姿が見えてくる可能性を示唆するからである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、The Worldら、デッラ・クルスカ派の投稿詩を掲載した各紙の紙面分析を行った。Burney Collection (データベース)を利用し、新聞紙面について次の調査、記録を行った。a)広告の種類、記事、その他の情報についての割合、b)投稿詩の前後ページの記事、c)投稿詩の発表日ごとの整理。それにより新聞投稿詩の同時代状況に浮かび上がるディスコースとしての性格について分析するための記録を採った。 平成29年度は、前年度の調査を継続し、大英図書館のデータベース資料の調査を行い、記録の増補を行った。さらに、雑誌に掲載されたデッラ・クルスカ派と称されるロバート・メリ一、ハナ・カウリー、メアリー・ロビンソンら投稿者たちの詩歌や彼らについての書評記事について、インターネットからの記録や書籍購入の形で収集をおこなうと同時に、彼らについての現代の研究書を収集した。また、十八世紀イギリス文化、出版史、文化史、十八世紀から十九世紀イギリス文学関係の図書を取集して、研究を進めている。 以上の資料や研究書からの研究成果の一部は、イギリス・ロマン派学会における口頭発表「デッラ・クルスカ詩の表現とイデオロギーおよびロマン派への影響」および研究論文「デラクルスカ派の詩における感受性のイデオロギーと十八世紀メディア」(『言語文化研究』25号)において公表した。 デッラ・クルスカ派についての研究から、特に十八世紀後半よりイギリスにおいては女性作家の活躍が著しかったという事実が見えてきた。十八世紀後半の女性詩人たちは、ミルトンの詩の韻律にならい、男性の詩よりも韻律が自由で、実験的であり、形式的にはコールリッジ以降のロマン派の詩人たちの先駆者とも言える。いったいなぜ、こうした女性作家たちの存在がこれまで見過ごされてきたのか。こうした興味深い事実の発見もこれまでの研究の成果として挙げられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、デッラ・クルスカ詩の新聞投稿詩としてのメディア性に注目して調査するなかで、読者同士を社会境遇や性差をこえてつなげるというメディアならではの特質を見てとることができた。同時に劇場的な自己演出が可能であるという特質もメディアならではのものである。十八世紀になり印刷媒体としてのメディアが初めて確立するわけであるが、他人が自分の経験を文章にして公開した時にそれにたいし不特定多数の読者がそれぞれ自分の経験と重ねて共感することが可能となる。十八世紀の「感受性」の思潮は、こうして印刷メディアが確立して初めて可能となった。デッラ・クルスカ詩において「共感」や「感受性」がどう機能するかを検証することが一つの課題である。そのなかで十八世紀の「感受性」の思潮についてもさらに研究、考察を深めたい。 もう一つの課題は十八世紀の女性詩人たちであり、彼女たちの多くの作品が後のワーズワース、コールリッジ、シェリー、キーツらの作品の背景となっている。十九世紀後半以降のロマン派受容においてはこうした先行する女性詩人たちの存在が忘れ去られてしまったわけであるが、もういちど同時代の言語的、政治的、社会的コンテクストにおいてロマン派の文学を見直すことを試みたい。Ashley Cross, Mary Robinson and the Genesis of Romanticism (2017)は、メアリー・ロビンソンの詩における他の作家たちとの対話の姿勢が、以降のロマン派の詩人たちに受け継がれた要素として論じる意欲的な新しい試みであり、参考となる。 以上の二つの課題についてそれぞれ、研究発表ないし論文の形で論考として発表し、これまでの研究の成果を広く問いたい。
|
Causes of Carryover |
校務等の理由で研究のための出張期間が当初の計画より1日短縮された。 その分の予算は次年度の出張費に充当したい。
|
Research Products
(2 results)