2018 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ南部と白人性―第二次大戦後の時代性と人種表象の力学
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16K02494
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
永尾 悟 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (80389519)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アメリカ南部 / 白人性(ホワイトネス) / アフリカ系アメリカ人作家 / リチャード・ライト / フランク・ヤービー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の全体像として、地理的・思想的領域としてのアメリカ南部をめぐり、この地域的独自性と表裏一体とされた白人性の概念から、Richard Wright、James Baldwin、その他の同時代のアフリカ系アメリカ人作家の文学を考察する。公民権法制定や冷戦構造によって南部の位置付けが変化した第二次大戦後において、これらの作家たちが、地域内の人種的相互作用を越えて構築される南部白人性を表象しようとした文学的想像力を捉えることを目指す。そのために、カラーラインと地理的境界線の相関性を再考する南部研究の新たな流れを踏まえ、白人性研究の理論的枠組みを援用しながら南部のローカリズムとグローバリズムの接点を人種という観点から探っていく。 上記の全体像を踏まえた2018年度の取り組みとして、Richard Wrightの自伝的小説Black Boy/American Hungerにおける人種と自己表象についての論文を完成させた。未出版の構想メモやタイプ原稿をもとに作品執筆から出版までの経緯を辿り、アフリカ系アメリカ人作家にとっての自己表象のあり方を当時の出版業界との関係を踏まえて考察した。この論文は、20世紀前半から中盤までのアメリカン・モダニズムにおける大衆性について論じた共著『アメリカン・モダニズムと大衆文学』(2019年3月金星堂)に収められている。 また、研究の新たな取り組みとしてFrank Yerbyの小説における南部白人性の構築について学会発表を行なった。Yerbyが抗議文学的短編“Health Card” (1944) でO. Henry賞を受賞しながら、その直後に南部大農園を舞台にした白人主人公の歴史ロマンスThe Foxes of Harrowを執筆した意義について、未出版の書簡、構想メモ、タイプ原稿をもとに考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度に行った学会発表の内容を論文に発展させる上で追加の研究資料が必要になったため、論文執筆が2019年度にずれ込んだため。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の取り組みとして、James Baldwinの初期から中期にかけての作品の構想や執筆の経緯について、草稿や書簡などの未出版物を手がかりとして検証し、Baldwin文学において重層的かつ交差的に映し出されるアメリカ南部と人種の表象の力学を読み解く。特に南部とそれ以外の土地(北部やヨーロッパ)との地理的相互作用を探りながら、第二次大戦後にヨーロッパに渡ったアフリカ系アメリカ人作家たちにも共通する間大西洋的文脈による南部の位置付けを考察する。 研究の総括および今後の発展的研究のために、考察の範囲を20世紀転換期から第二次大戦後まで拡大し、各世代の作家たちの白人性表象にまつわる同時代的特性を捉えると同時に、南部と白人性にまつわる言説の時代変遷を辿りたい。
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Causes of Carryover |
論文執筆のために新たに追加資料が必要となったため、追加分を2019年度に購入して論文執筆を行うことになった。
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