2017 Fiscal Year Research-status Report
『白鯨』の発生論的研究ー「流動的テクスト(fluid text)」を射程として
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16K02495
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
竹内 勝徳 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (40253918)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ハーマン・メルヴィル / 『信用詐欺師』 / 『白鯨』 / 音楽性 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度には、メルヴィルの『白鯨』について、そのテクストを詳細に分析することで、この作品における音楽的要素がいかにして作品の構造を形成しているかということを明らかにした。物語は語り手イシュメールとクィークェグの出会いから始まるが、クィークェグの名前、並びに、その発話におけるオノマトペ的な響きや反復性には音楽的要素がみられ、それがエイハブを中心としたオペラ的対話構成の序章として機能していることを明らかにした。本年は、その方向性をさらに推し進め、メルヴィルの『信用詐欺師』と短編「二つの教会堂」の関係性に着目し、テクスト内の劇場性が一定のイデオロギーを攪乱する働きを持つことを明らかにした。その劇場性とは、語りから逸脱する声が自律的に湧き上がることを発生源としている。『白鯨』におけるオノマトペ的な反響言語が、『信用詐欺師』においても一定の劇場性を伴って発展的に用いられることが分かった。本研究の内容については、「『信用詐欺師』における劇場性とネイティヴィズム」という論文で発表予定である。なお、fluid textとしての作品創作は、アメリカ伝統のトールテールなど、口述的談話の系統を引き継いでいると思われる。それについては、ナサニエル・ホーソーンの小説やマーク・トウェインの旅行記などを参考に、影響関係を掘り起こしているところである。これについては、「帝国に絡むトランスナショナリズム」という論文で発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『白鯨』のテクスト分析がおおむね終了し、音楽的要素の導入分布図作成も完了した。それによって、時間軸でみた作品の発生論的な考察が進んでいる。また、こうした作業によって培った分析法を活かして、『白鯨』と他の作品との照応関係、並びに、ナサニエル・ホーソーンの作品との呼応性について検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度で研究計画はほぼ終了したので、来年の最終年度に向けて、この研究を単著としてまとめたい。fluid textとしての『白鯨』の位置付けは、他のすべての作品の見直しを要するし、メルヴィルとホーソーンとの関係についても、これまでの学説が本研究によって刷新されるはずである。
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Causes of Carryover |
本年は勤務校の役職が非常に忙しいものとなり、予定していた海外出張を実施できなかった。また、来年度に予算を繰り越すことで、実績公開の比重を高めることができると考えた。
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