2018 Fiscal Year Research-status Report
『白鯨』の発生論的研究ー「流動的テクスト(fluid text)」を射程として
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16K02495
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
竹内 勝徳 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (40253918)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ハーマン・メルヴィル / 『白鯨』 / fluid text |
Outline of Annual Research Achievements |
『白鯨』における音楽的表現やそれを含む演劇的なパフォーマンスについて、その源を同時代ニューヨークの演劇文化に求め、政治活動と演劇活動の相互浸透なども含めて、当時の劇場や観客のあり方を分析した。その結果を「劇場文化の政治学──「二つの教会堂」を通して読み解く『信用詐欺師』」倉橋洋子・高尾直知・竹野富美子・城戸光世編著『繋がりの詩学――近代アメリカの知的独立と<知のコミュニティ>の形成』(彩流社、2019年2月)に活かした。また、メルヴィル文学のfluid textとしての性質を『ビリー・バッド』のタイトルに使われた「インサイド・ナラティブ」の概念によって説明し、既存のナショナル・ナラティブの背後に滑り込む語りとして定義した。その成果を「トランスアトランティックな遡行とエコロジカルな再生――メルヴィルの小説におけるアメリカ独立革命」川津雅江・吉川朗子編著『トランスアトランティック・エコロジー』(彩流社、2019年発行予定)において公開する。具体的には、「インサイド・ナラティブ」とは、一定のコードによって暗黙に申し合わされたテクストを上書きすることによって、そのテクストから排除された名もなき人物の歴史を長大な物語として紡ぎだす行為である。あわせて、『白鯨』全体のパフォーマンス的な表現の分布状態、並びに、『白鯨』の書き換えに際して、そうした分布がどのように生じてきたのかについての具体的な検証結果は、2019年に発行予定のメルヴィルに関する単著において公開する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度や学内の役職が予想外の割り当てとなり、それによって実績公開に遅れが生じてしまった。基金を1年繰り越すことによってこれに対処し、上述したように今年(メルヴィル生誕200周年)中にメルヴィル研究の集大成として単著を出版する。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに『白鯨』のテクストの分析を完了しているので、それを整理するとともに、他の作品論を組み合わせて単著を仕上げる。論点としては、以下のものを考えている。(1)身体的な結びつきを基盤としたコミュニケーションのあり方とその表出としてのパフォーマンス型テクストの諸相を考察する。(2)既存のナラティブを上書きするメルヴィルの創作法にfluid textとしての特質を認め、それが伝統的な小説技法とパファーマンス型表現の対立の中から生まれ出たものとして捉える。(3)イデア的統一とfluid textの分裂性を対置し、イデア的統一には常に政治性が絡んでくるという視点から、メルヴィル文学の本質を神やイデア的統一から逃れる分裂的自由として定義する。
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Causes of Carryover |
上述したように、本年度は予想外の役職についたため、成果公開に予想以上の遅れが生じ、次年度使用額が生じた。既に、成果公開の日程を変更し、2019年度中に発行できるようにしている。
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