2016 Fiscal Year Research-status Report
現代アフリカ系アメリカ女性作家によるネラ・ラーセンの抵抗の言語行為の継承と変奏
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16K02497
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
鵜殿 悦子 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (00128638)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アフリカ系アメリカ文学 / ハーレム・ルネサンス / 物語の枠組み / インターテクスチュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度までの科研費助成による研究で明らかになった点--現代アフリカ系アメリカ文学と1920年代ハーレム・ルネサンス期アフリカアメリカ文学の修辞的・構造的類似性--を基盤とし、本研究では、1920年代女性作家ネラ・ラーセンの文学テクストと、トニ・モリスンを中心とする現代アフリカ系アメリカ女性作家の文学テクストとの緊密な共鳴関係について分析する。ラーセンもモリスンもそれぞれ独自の抵抗の言説を生み出しているが、両者の文学には、アフリカ系アメリカ人の文学表現に特徴的な、それと気づかれないやり方で過去のテクストを引用したり、物語の枠組みを借用したりする間テクスト的な実践が見られることを検証する。また、ラーセンによる文学的実践が今日の文学においていかに変奏され生き続けているかを分析する。3年間の研究年度を通じて、テクスト、資料、研究書の読込みを行い、ハーレム・ルネサンス期前後から今日に至るアフリカ系アメリカ文学の特徴的な影響関係を把握し、その流れの中にラーセンとモリスンを始めとする現代アフリカ系アメリカ作家を置いて考察する。ハーレム・ルネサンス研究は代表的なものとしてHuggins, Wints, Wall, Hutchinson, Baker, Jr. 等の研究があるが、本研究のような観点から捉える研究は未だない。同時代の作家との比較、モリスンとフォークナーを比較する等の研究はあるが、ラーセンとモリスンという異なる時代を生きた、白人黒人二つの文化を熟知した二人の女性作家の共鳴関係を分析する本研究の視点は斬新である。 本年度は、研究発表2回、講演1回、海外の国際学会での研究報告1回を行い、また、2冊の共(編)著書を出版し、研究のアウトプットを十分に行うことができた。また、研究書や資料の読込みもある程度予定通りに進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、研究実施計画通り、ハーレム・ルネサンス関係図書を収集することから始め、ハギンズ等の研究書の読み込みを進めた。ラーセンのテクストの再読み込みを進めると同時に、モリスンを中心とする現代アフリカ系アメリカ作家のテクストも読み進めた。こうしたインプットに関しては予定通りに行うことができたものの、これらを総合して、全体的な文学地図を描けるまでには至っていないので、「やや遅れている」と自己評価した。 28年7月、ニューヨークで開催されたトニ・モリスン学会第7回国際大会に出席し、ワークショップにおいてモリスン研究の現状について研究報告した。また、同年4月、黒人研究学会例会にて研究発表を行い、6月にはアメリカ文学会中部支部例会にて研究発表を行った。また、10月には筑波大学アメリカ文学会例会にて学術講演を行った。 また、29年3月、共編著書『新たなるトニ・モリスン--その小説世界を拓く』(金星堂)を出版し、序文と論文「ヘンゼルとグレーテルの変容--『ホーム』における兄妹の闘争」を寄稿した。また、同年同月、共著書『法と生から見るアメリカ文学』(悠書館)を出版し、論文「エドガー・アラン・ポーとマイナー文学」を寄稿した。いずれの著書にも本研究の成果の一部が盛り込まれている。
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Strategy for Future Research Activity |
29、30年度は以下のように研究を進める予定である。 [1. 文献とテクストの読み込み] 29、30年度とも、ハーレム・ルネサンス関係の研究書、ラーセン、サーマン、フォーセットらの作家研究、モリスンを始めとする現代アフリカ系アメリカ文学研究に関する研究書を整備し、速度を持って読み進める。また、ラーセンとモリスンのテクストの比較精読を深化させる。 [2. 文献調査・実地調査] 29、30年度とも、ニューヨーク、ハーレム地区での実地調査を行う。同時に、ションバーグ黒人文化研究所、ニューヨーク市立図書館等で1920年代の文献の調査を行う。また、ラーセンの道程を知るために、アラバマ州タスキーギ大学を実地調査する。必要であれば、コペンハーゲン(デンマーク)にも赴く。 [3. 論文・著書の執筆] 29年度中にラーセン及びハーレム・ルネサンスに関する論文を2点執筆する予定である。ラーセンのの主要な伝記を比較対照し、作家の軌跡とその文学との関係を探ることを主眼とする。30年度の多くの時間は研究全体のまとめに費やされるだろう。著書『現代アフリカ系アメリカ女性作家によるネラ・ラーセンの抵抗の言語行為の継承と変奏(仮題)』の発行に向けて、原稿を鋭意執筆する。加えて、アフリカ系アメリカ文学に関する英文による単著書をアメリカ合衆国において出版する目標のため、鋭意執筆を進める。これについては研究成果促進費を申請し、刊行を実現したい。 [4.学会シンポジウムを企画する] 30年度には、アフリカ系アメリカ文学研究者をオーガナイズして、日本英文学会大会もしくは日本アメリカ学会大会等において、「ハーレム・ルネサンス期アフリカ系アメリカ女性作家と現代アフリカ系アメリカ女性作家のインターフェイス(仮)」と題するシンポジウムを企画したい。シンポジウムにおいては、鵜殿が司会・講師を務め、本研究の成果の一部を発表する。
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Causes of Carryover |
本年度出版した研究論集(報告書)の出版費のために予算を取っておいたが、他大学研究者の科研費や寄付金で費用を賄うことができたので、当方が拠出する必要がなくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
英文によるアフリカ系アメリ文学研究書をアメリカ合衆国で出版するために、現在準備中である。そのための英文校正費用に、28年度の未使用分を充てたい。
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Research Products
(5 results)