2018 Fiscal Year Research-status Report
世紀転換期の「人種小説」と黒人文化形成――アフリカ系アメリカ文学再考
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16K02505
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
奥田 暁代 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (40296736)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アフリカ系アメリカ文学 / 世紀転換期アメリカ文学 / ハーレムルネサンス前期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はアフリカ系アメリカ文学史の再考を試みるもので、とくにこれまで注目されずにきた19世紀末から20世紀初頭にかけて出版された作品群を詳しく見ていくことによって、あらたな潮流を見いだすことを目指している。具体的には、この時代の黒人作家・編集者・出版者が、白人読者を意識しながら定評のある文芸雑誌へ原稿を寄せ、さらに黒人読者を意識しながら黒人誌に執筆をする、というように、二方向へ創作活動を展開していたことを明らかにし、さらにその活動の拠点となった文芸クラブやネットワークについても明らかにする。 平成28年度に学会誌に掲載された論文では、バプティスト派牧師でもあったサットン・E・グリッグスの小説群を、当時のアメリカの文化や言説に照らして分析し、世紀転換期の南部黒人指導者が、南部の言説を活用しつつ独自の文化と意識を創生していることを明らかにした。平成29年度の学会報告では、詩人であり雑誌編集者でもあったジェイムズ・E・マッガートの作品や出版活動について文化史的な視点から読み解くことを試み、南部という「排他的」かつ「閉鎖的」と語られてきた地域に拠点を置くアフリカ系アメリカ人作家の可動性と多様性を明らかにした。平成30年度には、黒人紙の人気コラムニストで小説家でもあったジョン・E・ブルースを中心に据え、世紀転換期のアフリカ系アメリカ人作家たちの広汎なネットワークの考察を進め、その成果は平成31年秋に開催される国際学会でのパネルに採択された。さらに、詩人・小説家であったアリス・ダンバー=ネルソンの半世紀にわたる創作活動を、世紀転換期に多くの女性が参加した文芸クラブに着目しながら分析をしており、平成31年度末までには学会発表を行う。 一貫して北部に移住した作家を扱いながら、世紀転換期のアフリカ系アメリカ文学を読み直していく目的に沿って研究を進めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の計画はこれまで収集してきた資料をもとに分析を進めること、また年度末に資料収集を行うことだった。ヴァージニア大学のグレイス・ヘイル教授、メアリー・ワシントン大学のクリスティン・ムーン准教授と企画したアフリカ系アメリカ人の移動をテーマとしたセッションは採択され、ジョン・E・ブルースについての研究発表の機会を得ることができた。具体的にはアメリカ学会(American Studies Association)年次大会(2019年11月7日~10日)において、“The Journalistic Network and Literary Mobility of John E. Bruce, Pre-Harlem Renaissance Writer”について報告を行う。 年度末の資料収集は平成31年度の夏に予定変更し、ワシントン大学のレベッカ・ワンゾ准教授司会のパネルでの口頭発表を別の国際学会へ申請することに集中した。アリス・ダンバー=ネルソンの分析はこれまでの研究の延長線上にあり、多くの作家が関わったさまざまな文芸クラブの果たした役割についても明らかにするものである。これは、収集してきた資料から発見したもので、研究の可能性を見出した。提出した発表のタイトルは“Alice Dunbar-Nelson’s Unfulfilled Formation of Literary Identity and the Post-Bellum Pre-Harlem Renaissance Literary Network of Writers” となる。 平成30年度に投稿した論文は掲載には至っていないが、現在修正を進めており、平成31年度中に掲載されることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、11月開催のアメリカ学会での発表に加えて、もうひとつ国際学会での発表が実現する可能性がある(6月上旬に結果の通知)。これらの準備のために、8月にニューヨークの公共図書館で追加として必要となった資料の収集を行う。口頭研究発表以外には、2020年春に刊行予定の共著『ハーレム・ルネサンス』(明石書店)の担当章の執筆も行う。 さらに、最終年度となる次年度は、これまで続けてきた研究をさまざまな形で発表する予定であるが、これらの成果と今までの論文や学会での報告を合わせ、アフリカ系アメリカ文学史を再考する1冊の研究書としてまとめていくことも進める。
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Causes of Carryover |
(理由)平成30年度末にニューヨーク公共図書館にて資料収集を行う予定にしていたが、学会報告のためのプロポーザル執筆に専念した。その結果、予定していた外国旅費を使用せず、プロポーザルの英文校正などの謝金を使用するのみとなった。
(使用計画)平成31年度には少なくとも2度の渡米を計画している。まず、8月下旬に平成30年度に予定していた資料収集を行い、11月7日から10日にかけては、口頭発表のためアメリカ学会年次大会に参加する。プロポーザルが採択されれば2020年1月9日から12日にかけて開催される米国現代語学文学協会(Modern Language Association of America)の年次大会に参加することになり、渡航費が必要となる。国際大会での発表のため、英文校正費用も必要となる。
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Research Products
(1 results)