2017 Fiscal Year Research-status Report
ヴィクトリアニズムの呪縛―カリブ海地域の文学にみるアフリカ系ミドルクラスの肖像
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16K02509
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
岩瀬 由佳 東洋大学, 社会学部, 准教授 (60595411)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | カリブ海地域の文学 / ポストコロニアニズム / ヴィクトリアニズム / ジェンダー研究 / 階級の差異 / 移民表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の研究実績として、学会誌に論文を2本(単著)、国内学会全国大会発表(シンポジウム・パネリストを含む)を2回、学会報告を1本(論文形式)発表することができた。 主として、研究実施計画に基づき、旧イギリス領カリブ海地域出身のアフリカ系作家における中産階級とヴィクトリアニズムの影響について考察を行なったが、前科研費採択課題である西アフリカ神話に由来するカリブ海地域のフォークロア研究(Anancy stories)とのリンクも試み、アフリカ系カリビアン、特に中産階級におけるヴィクトリアニズムとAnancy storiesへの反発と受容の関連性についても研究を進めることができた。 更なる展開として、ジャマイカ出身のHerbert George de Lisser、Louise Bennet、Earna Brodberにとどまらず、旧カリブ海地域出身のアフリカ系カリビアンであり、移民作家であるElizabeth Nunez(トリニダード・トバゴ出身でアメリカに移住)とPauline Melville (ガイアナ出身でイギリスに移住)の作品も研究対象に広げ、移民作家におけるヴィクトリアニズムの影響に関しても考察を行うことができたのは、大きな成果であったと考える。特に、親子間のジェネレーションギャップ、階級意識、ケアの問題をめぐる諸相に焦点を当て、私小説的な側面から宗主国の古い価値観、ヴィクトリアニズムがもたらす陰影を本研究によって明確に提示できたのは、本年度の実績の一つだと考えている。 今後の研究として、旧植民地に残る作家と移民を選んだ作家間のヴィクトリアニズムの影響の差異について比較検討する必要があると思われる。その点に関しても更に留意しながら研究を進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今までのところ、概ね順調に進んでいると考えられるが、de Lisserの著作物に関するリサーチ、分析が不十分であると思われる。日本で入手できる資料が非常に少なく、限られてしまっていることも一つの要因であるが、今後、University of LondonやThe British Libraryにおいて積極的に文献検索を行い、資料をより一層多く収集することが必要だと考えている。またその一方で、旧イギリス植民地のみならず、アメリカ、イギリスに移住したカリブ系移民作家の作品におけるヴィクトリアニズムの影響にも研究を広げられたことは、大きな収穫だと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年4月1日より2019年3月31日まで東洋大学の海外特別研究に伴い、ロンドン大学からの招聘を受け、Visiting Scholarに就任する機会を得た。これにより、ロンドン大学図書館やThe British LibraryのThe Reading Roomにおける資料収集、分析がより容易になると考えられる。また、海外の研究者たちとの積極的な意見交換の機会も期待できることから、今後の本研究の推進が見込まれる。現地の研究会や学会などにも参加し、自らの研究を発信していける機会を作っていきたい。 本研究において、ジャマイカ出身の作家たち、H. G. de Lisser, Louise Bennet, Erna Brodberを中心に研究を進めてきたが、さらに研究対象をElizabeth Nunez, Pauline Melvilleといったカリブ系の移民作家たちにも広げていきたいと考えている。それによってさらに研究に深みをもたらしたい。
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Causes of Carryover |
2018年4月1日から一年間、ロンドン大学にVisiting Scholarとして招聘を受けた。そのbench fee(在籍・施設使用費)を科研費を利用して支払うことになったため、当初の予定より変更が生じた。2017年度の予算の一部を2018年度の費用と合わせてbench fee代として計上することとする。
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Research Products
(5 results)